関数
が領域 で定義されているとします.
をそれぞれ の増分とするとき,これに対応する の変動量
を の増分といい, で表わします.
ここで,
とおき,
となる関数
を o(h) で表わすとします.このとき,
となる定数 が存在するとき,関数 は点 で全微分可能(totally differentiable) であるといいます.ちょっと分りにくいですね.そこで,全微分可能のときどんなことがいえるのか調べてみましょう.
定理 6..2
関数 が点
で全微分可能ならば, は点
で連続かつ偏微分可能であり,
が成り立つ.
証明 点
で全微分可能なとき,
|
(6.1) |
となる定数が存在する.よって
これより, は点
で連続.次に,式6.1 で
とおくと,
これより,
となり, は点
で について偏微分可能で,
である.同様にして,
のときを考えることにより, は点
で について偏微分可能で,
を得る.
例題 6..12
は全微分可能か調べてみましょう.
解
例題6.2より は で偏微分可能となりますが,例題6.3より で連続ではありません.よって定理6.4より は で全微分可能ではありません.
この例題からも分かるように,偏微分可能であることは全微分可能であることの十分条件ではありません.何が足りないのか考えてみましょう.
級 ならばどうでしょうか.
級 とすると
ここで
は連続なので,
ただし,
のとき
.
同様に,
も連続なので,
ただし,
のとき
.
よって,
次に,
を示しましょう.
と表わせ,Schwarzの不等式よりベクトル
の間に
が成り立ちます.よって
このことより,次の定理を得ます.
定理 6..3
が の近傍で 級 ならば, は で全微分可能である.
が全微分可能なとき,
は の主要な部分とみなせるので,これを点 における関数
の 全微分(total differential) といい または で表わします.つまり
ここで
および
を考えることにより,
とおけるので
と表わすことができます.
このとき,ベクトル
を の 勾配(gradient) といい,
で表わします.つまり
したがって,全微分 は を用いて次のように表わすことができます.
は内積
ここにでてきたベクトル
は2変数のベクトル関数となり,ベクトル場(vector field) といいます.
図 6.4:
全微分
|
次に,点
を通り法線ベクトルが
であたえられる平面を考えます.このとき,平面上の任意の点と点
が作るベクトルと法線ベクトルは直交します.したがって,
これより,平面の方程式は,
で与えられるので,点
に対応する は
となり,
の近似となります.このような平面を,接平面(tangent plane)といいます.また,法線ベクトルは
で与えられます.
例題 6..13
の点における接平面と法線を求めてみましょう.
解
より
. これより接平面の方程式は
より
.また,法線は
または
接平面については8章で詳しく学びます.
例題 6..14
の全微分と を求めてみましょう.
解
例題 6..15
全微分を用いて,
を近似してみましょう.
解
電卓,コンピュータソフトを用いれば,簡単に近似できますが,手もとにそういう道具がないときはこんなふうにして求めます.
まず,関数
を考えます.このとき,
ならば,
と求めることができます.そこで,
とおくと,求める値は
となります.ここで,
であることを思い出してもらうと,求める値は
ところが,
なので,
と表わせます.あとは
より
よって
のとき,
これより,
となります.実際
をMathematicaを用いて求めると52.32となります.
確認問題
- 1.
- 次の関数のgradientと全微分を求めよう.
(a)
(b)
(c)
(d)
(e)
- 2.
- 次の条件を満たす接平面および法線の方程式を求めよう.
(a) 点を通り,法線ベクトルが
(b) 点における曲面
(c) 点における曲面
演習問題
- 1.
- 次の関数の全微分およびgradientを求めよう.また,点 に対応する点を通る接平面と法線を求めよう.
(a)
(b)
(c)
(d)
- 2.
- 全微分を用いて,次の値を近似してみよう.
(a)
(b)