偏導関数(partial derivatives)

図 6.2: z = f(x,y)
\begin{figure}\begin{center}
\includegraphics[width=6.2cm]{CALCFIG/Fig6-3-1.eps}
\end{center}\vskip -0.5cm
\end{figure}

$ z = f({\bf x}) = f(x,y)$ について点 $ {\bf x}_{0} = (x_{0},y_{0})$ で次のような極限を考えます.$ y = y_{0}$ をー定にして, $ x$ の関数 $ f(x,y_{0})$$ x = x_{0}$ で微分可能なとき,つまり

$\displaystyle \lim_{h \rightarrow 0}\frac{f(x_{0}+h,y_{0}) - f(x_{0},y_{0})}{h} $

が存在するとき, $ f(x,y)$ は点 $ (x_{0},y_{0})$$ x$ に関して偏微分可能(partially differentiable) であるといいます.また,この極限値を $ x$ に関する偏微分係数といい, $ f_{x}(x_{0},y_{0})$ で表わします.$ y$ の代わりに $ x$ を一定にして考えると,上と同じようにして, $ y$ に関しての偏微分可能性,偏微分係数が定義されます.また,集合 $ D$ の各点で $ x,y$ に関して偏微分可能のとき $ f(x,y)$$ D$ で偏微分可能であるといいます.

例題 6..2  

$ \displaystyle{f(x,y) = x^{2} + y^{2}}$ の偏微分係数 $ f_{x}(1,1)$を求めてみましょう.

$\displaystyle f_{x}(1,1) = \lim_{h \to 0}\frac{f(1+h,1) - f(1,1)}{h} = \lim_{h ...
... 1 - 2}{h} = \lim_{h \to 0}\frac{2h + h^{2}}{h} = 2 \ensuremath{ \blacksquare}$

$ D$ の各点 $ {\bf x} = (x,y)$ に,その点における $ x$ に関する偏微分係数を対応させることにより得られる関数を $ f({\bf x})$$ x$ に関する偏導関数(partial derivative) といい,

$\displaystyle f_{x}(x,y) = \lim_{h \rightarrow 0}\frac{f(x+h,y) - f(x,y)}{h} $

で表わします.同様に $ y$ に関する偏導関数を

$\displaystyle f_{y}(x,y) = \lim_{k \rightarrow 0}\frac{f(x,y+k) - f(x,y)}{k} $

で表わします.偏導関数を求めることを 偏微分(partial differentiation)するといいます.

例題 6..3  

次の関数を偏微分してみましょう.

$\displaystyle f(x,y) = x^2 + 2xy + 3y^3,  g(x,y) = \tan^{-1}(\frac{y}{x}) $

$ f_{x}(x,y)$ を求めるには, $ y$ を定数と考えて, $ f(x,y)$$ x$ について微分します.

$\displaystyle f_{x}(x,y) = 2x + 2y $

また,$ x$を定数と考えて$ y$について微分すると

$\displaystyle f_{y}(x,y) = 2x + 9y^2 $

同様にして,

$\displaystyle g_{x}(x,y) = \frac{1}{1 + (\frac{y}{x})^2} \cdot \frac{-y}{x^2} = \frac{-y}{x^2 + y^2}$

$\displaystyle g_{y}(x,y) = \frac{1}{1 + (\frac{y}{x})^2} \cdot \frac{1}{x} = \frac{x}{x^2 + y^2}  \ensuremath{ \blacksquare}$

これから分かるように1変数の導関数が求められれば,何の問題もなく2変数の偏導関数が求められます.

偏導関数 $ f_{x},f_{y}$ がさらに偏微分可能なとき,それらの偏導関数を 第2次偏導関数(2nd partial derivatives) といい,

$\displaystyle \frac{\partial}{\partial x}(\frac{\partial f}{\partial x}) = \frac{\partial^{2} f}{\partial x^2} = f_{xx} $

$\displaystyle \frac{\partial}{\partial y}(\frac{\partial f}{\partial x}) = \frac{\partial^{2} f}{\partial y \partial x} = f_{xy} $

$\displaystyle \frac{\partial}{\partial x}(\frac{\partial f}{\partial y}) = \frac{\partial^{2} f}{\partial x \partial y} = f_{yx} $

$\displaystyle \frac{\partial}{\partial y}(\frac{\partial f}{\partial y}) = \frac{\partial^{2} f}{\partial y^2} = f_{yy} $

などで表わします.

例題 6..4  

$ \displaystyle{f(x,y) = \left\{\begin{array}{cl}
\frac{xy}{x^2 + y^2} & (x,y) \neq (0,0)\\
0 & (x,y) = (0,0)
\end{array}\right.}$ のとき $ f_{x}(0,0), f_{y}(0,0)$を求め, $ (0,0)$ で偏微分可能か調べてみましょう.

解を見る前にある学生の解答をみてみましょう.

$ f_{x}(0,0)$ を求めればよいので,まず, $ f_{x}(x,y)$ を求めます.

$\displaystyle f_{x}(x,y) = \frac{y(x^2 + y^2) - xy(2x)}{(x^2 + y^2)^2} = \frac{y^3 - x^2 y}{(x^2 + y^2)^2} $

ここで $ (0,0)$ を代入すると

$\displaystyle f_{x}(0,0) = \frac{0}{0} $

となるので偏微分不可能.

残念ながら,この学生の解答は正解ではありません(なぜでしょう?).正解をみてみましょう.

$f(x,0) = 0, f(0,y) = 0$ より $f_{x}(x,0) = 0,f_{y}(0,y) = 0$ となるので, $ f(x,y)$ は点 $ (0,0)$ で偏微分可能となります. $  \blacksquare$

2次以上の偏導関数を高次偏導関数といいます.高次偏導関数では,微分する順序に注意しなければならないことがあります.つまり,関数 $ f(x,y)$ について常に $ f_{xy} = f_{yx}$ が成り立つとは限りません.次の例題は $ f_{xy}(0,0) \neq f_{yx}(0,0)$を示すのに,よく用いられる例題です.

例題 6..5  

$ \displaystyle{f(x,y) = \left\{\begin{array}{cl}
(xy)\frac{x^2 - y^2}{x^2+y^2} & (x,y) \neq (0,0)\\
0 & (x,y) = (0,0)
\end{array}\right. }$ のとき, $ \displaystyle{f_{xy}(0,0) \neq f_{yx}(0,0)}$を示してみましょう.

$\displaystyle f_{x}(0,y) = \lim_{h \to 0}\frac{f(h,y) - f(0,y)}{h} = \lim_{h \to 0}(hy)\frac{h^2 - y^2}{h(h^2 + y^2)} = - y $

より $ f_{xy}(0,0) = -1$. 次に,

$\displaystyle f_{y}(x,0) = \lim_{k \to 0}\frac{f(x,k) - f(x,0)}{k} = \lim_{k \to 0}(xk)\frac{x^2 - k^2}{k(x^2 + k^2)} = x $

より $ f_{yx}(0,0) = 1$. $  \blacksquare$

このように $ f_{xy}$$ f_{yx}$ はいつも等しいとは限りません.そこで $ f_{xy} = f_{yx}$ が成り立つための十分条件(この条件のもとなら必ず成り立つという条件)を述べておきます.その前に,ちょっと準備をします.

定義 6..1  

関数 $ f(x,y)$ が領域 $ D$ で第$ n$次までの偏導関数をもち,かつそれらがすべて連続なとき, $ f(x,y)$$ D$$ C^{n}$ 級であるといいます.


準備ができたので, $ f_{xy} = f_{yx}$ が成り立つための十分条件を示してみましょう.

定理 6..1  

関数 $ f(x,y)$ が領域 $ D$$ C^2$ 級であるならば, $ f_{xy} = f_{yx}$ である.


証明 偏導関数の定義と平均値の定理をつかって証明できるので,各自に任せる.

確認問題


1.
次の関数の偏導関数を求めよう.

(a) $ \displaystyle{f(x,y) = 3x^{2} - xy + y} $ (b) $ \displaystyle{f(x,y) = x^{2}e^{-y}}$ (c) $ \displaystyle{z = \sqrt{(x^2 + y^2)}}$

(d) $ \displaystyle{z = x\sin{y}}$ (e) $ \displaystyle{z = \frac{x-y}{x+y}}$

2.
次の関数の第2次までの偏導関数をすべて求めよう.

(a) $ \displaystyle{f(x,y) = ax^{2} + 2bxy + cy^{2}}$ (b) $ \displaystyle{f(x,y,z) = (x+y^{2}+z^{3})^{2}}$

(c) $ \displaystyle{f(x,y) = \sin(3x - 2y)}$ (d) $ \displaystyle{f(x,y) = xe^{2y}}$

演習問題


1.
次の関数を偏微分しよう.

(a) $ \displaystyle{z = x^3 + xy^2 + y^3} $ (b) $ \displaystyle{z = e^{x} \sin{y}}$ (c) $ \displaystyle{z = \log{(x^2 + y^2)}}$

2.
次の関数の第2次までの偏導関数をすべて求めよう.

(a) $ \displaystyle{z = x^3 y + x y^2}$ (b) $ \displaystyle{z = x y^2 e^{\frac{x}{y}}}$

(c) $ \displaystyle{z = \tan^{-1}{(x^2 + y^2)}}$

3.
次の関数は原点で偏微分可能か調べよう.

(a) $ \displaystyle{f(x,y) = \left\{\begin{array}{cl}
\frac{y^3 - x^2 y}{x^2 + y^2}, & (x,y) \neq (0,0)\\
0, & (x,y) = (0,0)
\end{array}\right.}$ (b) $ f(x,y) = \log{(1 + xy + y^2)}$