連続関数の基本的性質として,中間値の定理と最大・最小値の定理がありました.では微分可能な関数の基本的性質としてどんなことがいえるのでしょうか.まず,フランスの数学者 Joseph Louis Lagrange (1736-1813) によって初めて証明された平均値の定理から始めましょう.
が閉区間
で連続で,開区間
で微分可能ならば,
が少なくとも1つ存在する.
平均値の定理を証明する前に,平均値の定理はどんなことをいっているのか考えてみましょう.
は2点
を結ぶ直線の傾きと考えることができます.すると,
内に少なくとも1つあるということになります.ここで
は走っている車の位置を表わしているとし,区間
は時間を表わしていると考えましょう.すると
は時間
の間に走った距離を表わします.つまり,平均時速を表わしていることになります.では
は何を表わしているのでしょうか.これは微小時間内の距離の変化.つまり瞬間の速さを表わしています.ちょうどねずみ取りのときに警察が使うレーザーの速度計に現われる車のスピードです.つまり,平均値の定理は平均時速が60kmならば,必ず一回は車のスピードメーターは時速60kmを指したことがあるはずだといっているのです.
次に平均値の定理の特別な場合で フランスの数学者 Michel Rolle (1652-1719) によって1691年に発表された定理を考えます.
が閉区間
で連続,開区間
で微分可能で,さらに
ならば,
が少なくとも1つ存在する.
証明
最大・最小値の定理より,
は閉区間
で最大値と最小値をとる.いま,
であるような点
で最大値をとったとすると
となる.これより,
のとき
のとき
は微分可能であるから,両不等式の左辺の極限値は
であり,次の2式が成り立つ.
ならば,
であるような点で最小値をとるから,いまと同様にして,
となる.
平均値の定理の証明
Rolleの定理の条件を満たすような関数を作る.2点
を結ぶ直線を
とすると,
の方程式は
とおくと,
.また,
となり,Rolleの定理の条件を満たす.したがって,Rolleの定理より,
が少なくとも1つ存在する.
関数の性質
関数
が
の近傍で定義されていて,
が十分小さいとき,つねに
あるいは
はそれぞれ
で増加の状態あるいは減少の状態にあるといいます.
このような状態を簡単に見分ける方法はないのでしょうか.そんな疑問に次の定理は答えてくれます.
が
で微分可能であり,
ならば,
は
で増加の状態にあり,
ならば,
は
で減少の状態にある.
証明
の場合を考え,
の場合は各自に任せます.
が十分小さければ,
ならば
ならば
である.つまり,
は
で増加の状態にある.
平均値の定理を利用して関数の性質を導いてみましょう.
は閉区間
で連続,開区間
で微分可能とする.
において,常に
ならば
は
で定数関数.
において,常に
であって,しかも
に含まれるどのような区間においても,
ならば,
は
で狭義の単調増加関数である.
証明
である任意の
をとると,平均値の定理から
ならば,
となり,
は定数関数である.
また常に
ならば,
となる.もし,
のとき
ならば,区間
で定数関数となるから,そこで,
となって仮定に反する.したがって,
は
で狭義の単調増加関数である.
と
が閉区間
で連続で,開区間
において,常に
ならば,そこで
定数
証明
とおくと,
より
は定数関数.よって
.
は
で狭義の単調増加関数であることを示してみましょう.
解
まず,
より,
.また
で
になるのは
のときだけ.したがって,
は
で狭義の単調増加関数となります.
関数の大小を比較するにも,単調増加,単調減少が使えます.
のとき,次の不等式が成り立つことを示してみましょう.
解
まず,
とおきます.
より,不等式は
を示せば成り立つことがわかります.どうやったら示せるでしょうか.もし
を示せれば,定理2.4より,
は狭義の単調増加関数となり,
とあわせて,
がいえます.そこで
を求めると,
かわかりません.ところが
より,
がいえれば,
がいえます.そこで
をもとめると
は
のとき,
を満たすことをすでに学んだので
がいえます.よって,
となり,これより,
となります.
連続関数の性質として,ある区間での最大・最小値の定理がありましたが,ある点の近くでの関数の性質として,極大・極小は重要です.
の近傍のすべての
において
のとき,
は
で極大(local maximum),
ならば
は
で極小(local minimum) であるといいます.また,
をそれぞれ極大値,極小値といい,両方をあわせて極値 (extrema) といいます.
頭の中に微分可能な関数を思い浮かべてください.この曲線上の極値となるところで,微分係数または接線の傾きはどうなっているのか考えてみましょう.
が
で微分可能で,かつこの点で極値をとれば,
である.
証明
もし
ならば,関数
は
で増加の状態にあり,また
ならば,関数
は
で減少の状態にある.したがって,どちらの場合にも
は極値にならない.ゆえに
でなければならない.
つまり微分可能な関数は極値をとる点では接線の傾きは0になることがわかりました.次に連続な関数はどんなときに極値をとるのか考えてみましょう.
は
の近傍で連続で,
は十分小さいとする.
では
では
であるならば,
は
で極大になる.
では
では
であるならば,
は
で極小になる.
が
の前後で符号を変えなければ,
は極値でない.
証明
定理2.4 により,
は区間
では狭義の単調増加関数,区間
では狭義の単調減少関数になるから,
は
で極大になる.その他の場合の証明も同様にできます.
この定理から関数が微分可能でない点でも極値をとることがあることがわかったでしょうか.そんな例として
を考えてみましょう.
は
で微分可能ではありません.しかし
で極小値
をとります.
微分係数は接線の傾きを表わしていました.では2回微分係数はどんなことを表わしているのでしょうか.まずは2回微分係数とグラフの関係から考えましょう.
関数のグラフ上の点Pの近くで,グラフが点Pにおける接線(y軸に平行でない)の上側にあるとき,グラフは点Pで下に凸(concave up) であるといい,グラフが下側にあるとき上に凸(concave down) であるといいます.また,グラフが点Pの片側で接線の上側,もう片側では接線の下側にあるとき点Pを 変曲点(inflection point) といいます.
が
を含むある区間で
級で,
ならば,グラフは下に凸で
は極小値
ならば,グラフは上に凸で
は極大値
証明 (1)の証明. 関数
に定理2.4を適用すると,
は
で増加の状態.いま,
であるから,
は
の近傍で左側では負,右側では正になる.よってグラフは下に凸となる.また定理2.4より,
は
で極小.
(2)の証明も同様にできます.
の極値およびグラフの凹凸を調べ,グラフの概形を描いてみましょう.また,区間
での最大値を求めてみましょう.
解
まず,
は
で微分可能より,極値をとれば,
となります.そこで,
を満たす
を求めます.
が極値の候補となります.次にグラフの凹凸を調べるため,
を求めます.
軸上に,その下に
の符号,その下に
の符号,最後に
の増減を表わした,増減表とよばれる表を書いてみましょう.
で極大値
をとり,
で極小値
をとることがわかります.次に2回微分を用いると
が変曲点で,その左側では上に凸,その右側では下に凸になっています.最後にグラフを描いてみましょう.
次に閉区間
を考えます.最大最小値の定理より,連続関数は閉区間の中で必ず最大値,最小値をとるので,端点
と
での値と区間
内での極大値,極小値を比べ,最も大きい値が最大値となります.よって
.
の値を求めよう.
(a)
のとき,
の最大値を求めよ.
=2.6zw =1(b) 正四角形の2頂点が
上にあり,残りの2頂点が
軸上にあるとき,正四角形の面積の最大値を求めよ.
(c) 半径4の円に内接する正四角形の面積の最大値を求めよ.
(d) 楕円
と直線
の最短距離を求めよ.
の値を,次の関数と区間について求めよう.
は
で狭義の単調減少関数となることを示そう.