に相似な行列 の固有値はどうなっているのでしょう.
証明
第2章で対角行列について学びました.対角行列は対角成分以外の成分がすべて 0 の行列で, 対角行列どうしの和も積も対角行列となり, 非常に扱いやすい行列です.また明らかに対角行列の固有値は対角成分そのものなので, 簡単に固有値を求めることができます.
もちろん私たちが扱う行列のほとんどは対角行列ではありません.しかし, が対角行列になることがあります.このような が存在するとき, は 対角化可能(diagonalizable)であるといいます.そこで正方行列はどんなとき対角化が可能なのか調べてみました.
証明
が対角行列となるように適当な正則行列 を選ぶと
この証明より が対角化可能なら の対角成分は の固有値で構成され, その数は固有空間の次元に一致することがかわります.
解 例題3.2より, の固有値は であり, 固有空間は
正方行列が対角化可能であるための必要十分条件は, それぞれの固有値に対する固有空間の次元と固有値の重複度が一致することでした.では一致しない場合はどんなことがいえるのでしょうか.
行列の三角化
正方行列 に対して, 適当な正則行列 を選んで が上三角行列となるとき, は によって三角化(triangular)されるといいます.
次の正方行列 について, を の 共役転置(conjugate transpose) といいます.また である行列を エルミート行列(Hermitian matrix) といいます.なお, が実行列のとき は転置行列 になり, エルミート行列と対称行列は同じものになります.
解 .よって はエルミート行列である.
となる 次の複素正方行列 を ユニタリ行列(unitary matrix) といいます.また, となる 次の実正方行列 を 直交行列(orthogonal matrix) といいます.これよりただちに がユニタリ行列のとき , が直交行列のとき が得られます.
証明 行列 の次数 について帰納法を用いる. のときは 自身上三角行列である. 次の正方行列について定理が成り立つと仮定し, 次の正方行列 に対しても定理が成り立つことを示す.
のひとつの固有値を , それに対する固有単位ベクトルを とし, , , , を の正規直交基底になるように選ぶ.すると演習問題4.1より
解 より, 固有値は である.また
次の実正方行列 が重複度をこめて 個の実数の固有値をもつならば, いま行なった証明はそのまま実数の範囲で繰り返すことができます.この場合, として直交行列を用いることができ次の定理を得ます.
1. 次の行列は対角化可能か.可能ならば適当な正則行列 を求めて対角化せよ.もし不可能ならば三角化を行なえ.
2. がベクトル空間 の部分空間であるとき, が直和であるための必要十分条件は
であることを証明せよ.
3. が有限次元のとき,
4. 3次元ベクトル空間 において
5. 直交行列の固有値 の絶対値はつねに であることを証明せよ.
6. 正方行列 の列ベクトルが正規直交基底をなすとき, はユニタリ行列であることを証明せよ.