行列式

$\spadesuit$クラメールの公式 $\spadesuit$

行列式を定義する前に2個の変数に関する連立1次方程式を考えてみましょう.

$\displaystyle \left \{ \begin{array}{rrl}
a_{11}x_{1} + a_{12}x_{2} &=& b_{1} \\
a_{21}x_{1} + a_{22}x_{2} &=& b_{2}
\end{array}\right. $

を変数 $x_{1},x_{2}$ について解きます.最初の式に $a_{22}$ を,後の式に $-a_{12}$ をかけたものを加えると,

$\displaystyle (a_{11}a_{22} - a_{12}a_{21})x_{1} = b_{1}a_{22} - a_{12}b_{2} $

を得ます.よって $a_{11}a_{22} - a_{12}a_{21} \neq 0$ のとき, 解

$\displaystyle x _{1} = \frac{b_{1}a_{22} - a_{12}b_{2}}{a_{11}a_{22} - a_{12}a_{21}}$

が得られます.同様にして,

$\displaystyle x_{2} = \frac{a_{11}b_{2} - b_{1}a_{21}}{a_{11}a_{22} - a_{12}a_{21}}$

が得られます.ここに表れた共通の分母を

$\displaystyle a_{11}a_{22} - a_{12}a_{21} = \left \vert \begin{array}{lr}
a_{11}&a_{12}\\
a_{21}&a_{22}
\end{array}\right \vert $

で表して, これを方程式の係数の行列 $(a_{ij})$行列式(determinant) といい $\det(a_{ij})$ または $\vert(a_{ij})\vert$ で表します.この表し方を使うと,

$\displaystyle x_{1} = \frac{\left \vert \begin{array}{lr}
b_{1}&a_{12}\\
b_{2}...
...\vert\begin{array}{lr}
a_{11}&a_{12}\\
a_{21}&a_{22}
\end{array}\right \vert} $

と書けます.これを クラメールの公式(Cramer's rule) といいます.

$\spadesuit$余因子展開 $\spadesuit$

定義 2..5  

行列 $A = (a_{ij})$$n$ 次の正方行列とする.
$(a)$ $n = 1$ のとき, $\det(A) = a_{11}$
$(b)$ $n = 2$ のとき, $\det(A) = a_{11}a_{22} - a_{12}a_{21}$
$(c)$ $n \geq 2$ のとき, 行列 $A$ の行$i$ と列 $j$ を削除して作った$(n-1)$ 次の行列の行列式を $M_{ij}$ で表し$A$小行列式(minor) という.さらに, $a_{ij}$余因子(cofactor) といわれるものを次のように定義する.

$\displaystyle A_{ij} = (-1)^{i+j}M_{ij}.$

このとき, $A$行列式(determinant)$\det(A)$ を次のように定義する.

$\displaystyle \det{A} = \sum_{j=1}^{n}a_{ij}A_{ij}. $

この行列式の求め方を第$i$行についての 余因子展開(cofactor expansion) といいます.同様にして, 次のような行列式の求め方を第$j$列についての余因子展開といいます.

$\displaystyle \det{A} = \sum_{i=1}^{n}a_{ij}A_{ij}. $

$n$ 次の正方行列では行についての余因子展開が $n$通り可能です.また列についても$n$通り可能です.驚くことに, どの行または列についての余因子展開も同じ結果を与えます.このことより, 私たちは行列 $A$ の行列式を余因子展開で定義することができるのです.

定理 2..13  

正方行列 $A$ においてすべての行または列についての余因子展開は皆等しい.

例題 2..13  

次の行列式を計算しよう. $\det \left(\begin{array}{rrr}
0&-2&0\\
-1&3&1\\
4&2&1
\end{array}\right) $

$1$行についての展開を行なう.

$\displaystyle \left \vert\begin{array}{rrr}
0&-2&0\\
-1&3&1\\
4&2&1
\end{arra...
...rr}
-1&1\\
4&1
\end{array}\right\vert + 0 = -10 .
\ensuremath{ \blacksquare}
$

行列式の定義としてよく用いられているものには次のようなものもあります.まず $n$ 次の正方行列 $A$ を考えます.この行列のそれぞれの行と列から成分をひとつずつ取り出しかけ合わせます.すると $a_{1i_{1}}a_{2i_{2}}\cdots a_{ni_{n}}$ の形をした組ができます.このとき, 成分の列の位置 $(i_{1},i_{2},\ldots,i_{n})$$\sigma$ で表します.さて $\sigma$ は全部で何個できるでしょうか.$n$個の数を順に並べるので, 最初の数は $n$個の中からどれでも使えます.つぎの数は既にひとつ使ってしまったので残りの $n-1$個の中のどれでも使えます.こうやって数えていくと全部で $n!$個できることがわかります.次にこの形をした組に次のような規則で符号をつけてゆきます. $(i_{1},i_{2},i_{3},\ldots,i_{n})$ $(1,2,3,\ldots,n)$ の順になるように, 隣り合った2数を入れ換えていったとき, 偶数回でできたら $+$ の符号をつけ奇数回でできたら $-$ の符号をつけます.この符号を $sgn(i_{1},i_{2},\ldots,i_{n})$ で表します.たとえば, 同じ(1432)も

$\displaystyle (1432) \longrightarrow (1423) \longrightarrow (1243) \longrightarrow (1234) $

$\displaystyle (1432) \longrightarrow (1234)$

と(1234)に至るまでの回数は異なりますが, 共に奇数回より $sgn(1432) = -$ となります.実際,

$\displaystyle sgn(i_{1},i_{2},\ldots,i_{n}) = \sum_{k=1}^{n-1}sgn \prod_{j=1}^{k}(i_{k} - i_{j}) $

と表せるので, $sgn(i_{1},i_{2},\ldots,i_{n})$ の符号は一意的に定まります.これより

$\displaystyle \det A = \sum_{\sigma}sgn(i_{1},i_{2},i_{3},\ldots,i_{n})a_{1i_{1}}a_{2i_{2}}\cdots a_{ni_{n}} $

と定義します.

例題 2..14  

$sgn(154632)$ を求めよう.

$\displaystyle (154632) \longrightarrow (124635) \longrightarrow (123645) \longrightarrow (123465) \longrightarrow (123456) $

より $sgn(154632) = + .$ $ \blacksquare$

$\spadesuit$行列式の性質 $\spadesuit$

行列式は次のような性質をもっています.

定理 2..14  

$B = A^{t}$ のとき, $\det{B} = \det{A}.$

証明 $A^{t}$ の第$j$列についての余因子展開は, $A$ の第$j$行についての余因子展開と同じである.よって $\det{A} = \det{B}$. $ \blacksquare$

この定理によって, 行列式の行について成り立つ性質は列についても成り立ちます.その逆もいえるので, 今後, 行列式に関する定理の証明は, 行または列の一方だけについて行えば良いことになります.

定理 2..15  

行列 $B$ が行列 $A$ の行の定数倍$\alpha$ で得られたなら, $\det{B} = \alpha \det{A}$.

証明 $A$ の第$k$行を $\alpha$倍したものを $B$ とし, 第$k$行について展開すると,

$\displaystyle \det{B} = \sum_{i=1}^{n}(-1)^{k+i}b_{ki}M_{ki} $

となる.ただし, $b_{ki} = \alpha{a_{ki}}$.さらに, $M_{ki}$$B$$A$も同じなので,

$\displaystyle \det{B} = \sum_{i=1}^{n}(-1)^{k+i}\alpha a_{ki}M_{ki} = \alpha \sum_{i=1}^{n}(-1)^{k+i}a_{ki}M_{ki} = \alpha \det{A}.
\ensuremath{ \blacksquare}
$

定理 2..16  

行列 $B$ が行列 $A$ の行または列の入れ替えで得られたなら,

$\displaystyle \det{B} = -\det{A}.$

証明 行列の次数に帰納法を用いる.
$A$ を2次の行列とすると,

$\displaystyle A = \left(\begin{array}{lr}
a_{11}&a_{12}\\
a_{21}&a_{22}
\end{array}\right) . $

行の入れ替えで $B$ を得たなら,

$\displaystyle B = \left(\begin{array}{lr}
a_{21}&a_{22}\\
a_{11}&a_{12}
\end{array}\right) . $

よって $\det{B} = -\det{A}$ となる.

つぎにこの定理が次数 $(n-1)$ の正方行列で成り立つと仮定し, 次数 $n$ の正方行列 $A$ でも成り立つことを示す.行列 $A$ の第$i$行と第$j$行との入れ替えで得たものを行列 $B$ とする.このとき 第$k$行について余因子展開を行なうと,

$\displaystyle \det{B} = \sum_{s=1}^{n}a_{ks}B_{ks},  \det{A} = \sum_{s=1}^{n}a_{ks}A_{ks}.$

$B_{ks}$$A_{ks}$ は行列 $A$ の小行列式を表しているので $(n-1) \times (n-1)$ の行列式, よって帰納法より,

$\displaystyle B_{ks} = -A_{ks},  (s = 1,2, \ldots, n) .$

したがって, $\det{B} = -\det{A}$. $ \blacksquare$

定理 2..17  

行列 $B$ が行列 $A$ のひとつの行または列の $\alpha$倍を他の行または列に加えて得られたなら, $\det{B} =\det{A}$.

証明 行列 $A$ の第$i$行の $\alpha$倍を第$j$行に加えたものを行列 $B$ とする.つまり

$\displaystyle B = \left(\begin{array}{cccc}
a_{11}&a_{12}&\cdots&a_{1n}\\
\vdo...
...\vdots\\
a_{n1}&a_{n2}&\cdots&a_{nn}
\end{array}\right) \leftarrow j\mbox{行}. $

行列 $B$ を第$j$行について展開すると,
$\displaystyle \det{B}$ $\displaystyle =$ $\displaystyle \sum_{k=1}^{n}(\alpha a_{ik} + a_{jk})A_{jk}$  
  $\displaystyle =$ $\displaystyle \sum_{k=1}^{n}\alpha a_{ik}A_{jk} + \sum_{k=1}^{n}a_{jk}A_{jk} .$  

となる.ここで $A_{jk}$$B$ の第 $j$ 行と第 $k$ 列を削除して得られたものなので,

$\displaystyle \sum_{k=1}^{n}a_{jk}A_{jk} = \det{A}.$

また $\sum_{k=1}^{n}\alpha a_{ik}A_{jk}$ は行列 $A$ の第$j$行を第$i$行の $\alpha$倍して得られたものの行列式なので, 第$j$行を $\displaystyle{\frac{1}{\alpha}}$倍するとふたつの行の対応する成分がみな等しい行列ができる.この行列の行列式は定理2.5より 0 となる.つまり $\sum_{k=1}^{n}\alpha a_{ik}A_{jk} = 0$. よって, $\det{B} =\det{A}$. $ \blacksquare$

上の $3$つの定理より, 行列 $A$ に行基本変形を施して作った行列 $B$ の行列式は基本行列の行列式と行列 $A$ の行列式の積になることがかわります, 言い換えると

定理 2..18  

$\det(EA) = \det(E)\det(A)$, ただし$E$ は基本行列.

証明 $3$つの行基本変形 $L_{1},L_{2},L_{3}$ ($L_{1}$ はふたつの行の入れ替え, $L_{2}$ はひとつの行にある数をかけて他の行に加える, $L_{3}$ はひとつの行に 0 でない数 $\alpha$ をかける)に対応する基本行列を $E_{1},E_{2},E_{3}$ とすると定理 2.5,2.5,2.5 より

$\displaystyle \vert E_{1}\vert = -1,  \vert E_{2}\vert = 1,  E_{3}A = \alpha . $

ここで行列 $E_{i}A$ は行列 $A$ に対応する基本変形$L_{i}$ を施したものであるから,

$\displaystyle \vert E_{1}A\vert = -\vert A\vert = \vert E_{1}\Vert A\vert,  \v...
... A\vert,  \vert E_{3}A\vert = \alpha \vert A\vert = \vert E_{3}\Vert A\vert . $

よっていずれの場合も, $\det(EA) = \det(E)\det(A)$. $ \blacksquare$

定理 2..19  

行列 $B$ が次のいずれかの性質をもつとき, $\det{B} = 0$ である.
(1) ひとつの行(または列)のすべての成分が0である.
(2) 行列 $A$ のふたつの行(または列)の対応する成分が等しい.
(3) 行列 $A$ のふたつの行(または列)の対応する成分が比例している.

証明

(1) 定理2.5 $\alpha = 0$ とおけばよい.
(2) 行列 $B$ を行列 $A$ の成分の等しい行(または列)の入れ替えで得た行列とすると, 定理2.5より $\det{B} = -\det{A}$. しかし行列 $A$ と行列 $B$ は同じものであるから, $\det{B} =\det{A}$. よって $\det{A} = 0$.
(3) 行列 $A$ の第$j$行が第$k$行の $\alpha$倍と等しいとする. $\alpha = 0$ ならば $\det{A} = 0$. よって $\alpha \neq 0$ とする.行列 $A$ の第$j$行を $\displaystyle{\frac{1}{\alpha}}$倍して得た行列を $B$ とすると, 定理2.5より $\displaystyle{\det{B} = \frac{1}{\alpha}\det{A}}$. また定理2.5(2)より $\det{B} = 0$. よって $\det{A} = 0$.

例題 2..15  

次の行列式を計算しよう.
$(a)  \det \left(\begin{array}{rrr}
2&-1&2\\
-4&3&-3\\
0&1&1
\end{array}\righ...
...)  \det \left(\begin{array}{rrr}
1&-2&0\\
-1&3&1\\
2&-3&1
\end{array}\right)$

% latex2html id marker 34225
$ (a) \ \left\vert\begin{array}{rrr}
2&-1&2\\
-4&3...
...\
2&1&1
\end{array}\right \vert \stackrel{\mbox{定理}\ref{teiri:2-18}(2)}{=} 0 .$
ここで $2C_{1} + C_{2}$ は第1列の2倍を第2列にたすことを意味しています. $ \blacksquare$

例題 2..16  

次の行列の行列式を求めよう.
$(a)  A = \left(\begin{array}{rrr}
-4&-1&6\\
1&2&3\\
2&-3&4
\end{array}\right...
...  B = \left(\begin{array}{rrr}
2&-3&4\\
1&2&3\\
-4&-1&6
\end{array}\right). $

(a)

$\displaystyle \left\vert\begin{array}{rrr}
-4&-1&6\\
1&2&3\\
2&-3&4
\end{array}\right\vert \!\!$ $\displaystyle \stackrel{R_{1} \leftrightarrow R_{2}}{=}$ $\displaystyle - \left\vert\begin{array}{rrr}
1&\!\!2&3\\
-4&\!\!-1&6\\
2&\!\!...
...{rrr}
1&\!\!2&\!\!3\\
0&\!\!7&\!\!18\\
0&\!\!-7&\!\!-2
\end{array}\right\vert$  
  $\displaystyle \stackrel{\begin{array}{cc}
{}^{\frac{R_{2}}{7}}\\
{}^{R_{2}+R_{3}}
\end{array}}{=}$ $\displaystyle -7 \left\vert\begin{array}{rrr}
1&2&3\\
0&1&\frac{18}{7}\\
0&0&16
\end{array}\right\vert = -7 \cdot 16 = -112 .$  

(b) 行列 $B$ は行列 $A$ の第1行と第3行を入れ替えたものなので, 定理2.5より $\det B = 112.$ $ \blacksquare$

例題 2..17  

上の定理を用いて次の行列式を因数分解しよう.

$\displaystyle \left\vert \begin{array}{rrr}
1&a&a^3\\
1&b&b^3\\
1&c&c^3
\end{array}\right\vert $


$\displaystyle \left\vert \begin{array}{rrr}
1&a&a^3\\
1&b&b^3\\
1&c&c^3
\end{array}\right\vert $ $\displaystyle \stackrel{\begin{array}{ll}
{}^{-R_{1}+R_{2}}\\
{}^{-R_{1}+R_{3}}
\end{array}}{=}$ $\displaystyle \left \vert \begin{array}{rrr}
1&a&a^3\\
0&b-a&b^3-a^3\\
0&c-a&c^3-a^3
\end{array}\right \vert$  
  $\displaystyle \stackrel{\begin{array}{ll}
{}^{\frac{R_{2}}{b-a}}\\
{}^{\frac{R_{2}}{c-a}}
\end{array}}{=}$ $\displaystyle (b-a)(c-a)\left \vert \begin{array}{rrr}
1&a&a^3\\
0&1&b^2+ba+a^2\\
0&1&c^2+ca+a^2
\end{array}\right \vert$  
  $\displaystyle \stackrel{-R_{2}+R_{3}}{=}$ $\displaystyle (b-a)(c-a)\left \vert \begin{array}{rrr}
1&a&a^3\\
0&1&b^2+ba+a^2\\
0&0&c^2+ca-b^2-ba
\end{array}\right \vert$  
  $\displaystyle =$ $\displaystyle (b-a)(c-a)(c-b)(a+b+c) .
\ensuremath{ \blacksquare}$  

最後に行列式に関する定理の内もっとも重要と思われる2つの定理を記しておきます.

$\spadesuit$行列式の積 $\spadesuit$

定理 2..20  

$\det{AB} = \det{A}\det{B}.$

証明 行列 $A$ は適当な基本行列 $E_{i}$ を用いて $A = E_{k}E_{k-1} \cdots E_{1}A_{R}$ と表せる.よって定理2.5より

$\displaystyle \vert A\vert = \vert E_{k}\Vert E_{k-1}\vert \cdots \vert E_{1}\Vert A_{R}\vert. $

もし$\vert A\vert = 0$ なら $\vert A_{R}\vert = 0$. よって $A_{R}$ の, ある行ベクトルは零ベクトル.つまり $AB$ の, ある行ベクトルも零ベクトル.これより $\vert AB\vert = 0$. もし $\vert A\vert \neq 0$ なら $\vert A_{R}\vert \neq 0$ となるので定理2.3より $A_{R} = I$ となる.よって

$\displaystyle \vert A\vert = \vert E_{k}\Vert E_{k-1}\vert \cdots \vert E_{1}\vert, $

$\displaystyle AB = E_{k}E_{k-1} \cdots E_{1}B. $

これより

$\displaystyle \vert AB\vert = \vert E_{k}E_{k-1} \cdots E_{1}B\vert = \vert E_{...
...ots \vert E_{1}\Vert B\vert = \vert A\Vert B\vert.
\ensuremath{ \blacksquare}
$

定理 2..21  

$A$$n$ 次の正方行列のとき,次の条件は同値である.
$1)$ $A$正則行列
$2)$ $\vert A\vert \neq 0$
$3)$ $A^{-1}$ が存在し, $A^{-1} = \frac{1}{\vert A\vert}\left(\begin{array}{rrr}
A_{11}&\cdots&A_{1n}\\
\vdots&\vdots&\vdots\\
A_{n1}&\cdots&A_{nn}
\end{array}\right )^{t}$ で与えられる.ただし$A_{ij}$$A$ の余因子.
$4)$ $A{\mathbf x} = {\bf b}$ はただ $1$組の解をもち, その解は次の式で与えられる.

$\displaystyle x_{j} = \frac{1}{\vert A\vert} \left\vert\begin{array}{rrrrr}
a_{...
...{nn}
\end{array}\right \vert = \frac{\vert[A_{j}:{\bf b}]\vert}{\vert A\vert}. $

これをクラメールの公式という.
$5)$ ${\rm rank}(A) = n$
$6)$ $A_{R} = I$

証明に入る前にこの定理の中にでてきた転置行列 $\left(\begin{array}{rrr}
A_{11}&\cdots&A_{1n}\\
\vdots&\vdots&\vdots\\
A_{n1}&\cdots&A_{nn}
\end{array}\right )^{t}$$A$余因子行列(ajoint) とよばれ$adj A$ と表します.また

$\displaystyle \left(\begin{array}{ccccc}
a_{11}&\cdots&b_{1}&\cdots&a_{1n}\\
\vdots& &\vdots&&\vdots\\
a_{n1}&\cdots&b_{n}&\cdots&a_{nn}
\end{array}\right)$

は行列 $A$$j$列を ${\bf b} = \left(\begin{array}{c}
b_{1}\\
b_{2}\\
\vdots\\
b_{n}
\end{array}\right)$ で置き換えたもので, $[A_{j}:{\bf b}]$ で表します.

証明 1) $\Rightarrow$ 2)
$A$ が正則ならば, $AA^{-1} = I$ なので定理2.5より $\vert A\Vert A^{-1}\vert = \vert AA^{-1}\vert =\vert I\vert = 1$. よって $\vert A\vert \neq 0$ である.
2) $\Rightarrow$ 3)
$\vert A\vert \neq 0$ なので $X = \frac{1}{\vert A\vert}\left(\begin{array}{rrr}
A_{11}&\cdots&A_{1n}\\
\vdots&\vdots&\vdots\\
A_{n1}&\cdots&A_{nn}
\end{array}\right )^{t}$ とおくと

$\displaystyle XA$ $\displaystyle =$ $\displaystyle \frac{1}{\vert A\vert}\left(\begin{array}{rrr}
A_{11}&\cdots&A_{1...
...}& \cdots &a_{1n}\\
\vdots&&\vdots\\
a_{n1}&\cdots&a_{nn}
\end{array}\right )$  
  $\displaystyle =$ $\displaystyle \frac{1}{\vert A\vert}\left(\begin{array}{rrr}
\vert A\vert&\cdots&0\\
\vdots&&\vdots\\
0&\cdots&\vert A\vert
\end{array}\right ) = I .$  

よって $XA = I$ となり $X = A^{-1}$.
3) $\Rightarrow$ 4)
$A^{-1} = \frac{1}{\vert A\vert}\left(\begin{array}{rrr}
A_{11}&\cdots&A_{1n}\\
\vdots&\vdots&\vdots\\
A_{n1}&\cdots&A_{nn}
\end{array}\right )^{t}$ $A{\mathbf x} = {\bf b}$ に左側からかけると,
$\displaystyle {\mathbf x} = A^{-1}{\bf b}$ $\displaystyle =$ $\displaystyle \frac{1}{\vert A\vert}\left(\begin{array}{rrr}
A_{11}&\cdots&A_{1...
...}\right )^{t}\left(\begin{array}{c}
b_{1}\\
\vdots\\
b_{n}
\end{array}\right)$  
  $\displaystyle =$ $\displaystyle \frac{1}{\vert A\vert}\left(\begin{array}{rcr}
b_{1}A_{11}&+ \cdo...
...\vdots&\vdots&\vdots\\
b_{1}A_{1n}&+ \cdots + &b_{n}A_{nn}
\end{array}\right )$  

を得る.

右辺の成分 $b_{1}A_{1j}+b_{2}A_{2j}+\cdots+b_{n}A_{nj}$ は, 行列 $A$ の第$j$列を ${\bf b}$ で置き換えた行列

$\displaystyle [A_{j}:{\bf b}] = \left(\begin{array}{rrrrr}
a_{11}&\cdots&b_{1}&...
...vdots&&\vdots&&\vdots\\
a_{n1}&\cdots&b_{n}&\cdots&a_{nn}
\end{array}\right ) $

の第$j$列についての余因子展開である.したがって

$\displaystyle x_{j} = \frac{1}{\vert A\vert} \left\vert\begin{array}{rrrrr}
a_{...
...{nn}
\end{array}\right \vert = \frac{\vert[A_{j}:{\bf b}]\vert}{\vert A\vert}. $

4) $\Rightarrow$ 5)
$A{\mathbf x} = {\bf b}$ がただ $1$組の解${\bf p}$ をもつとする. このとき $A{\mathbf x} = {\bf0}$ の基本解を ${\bf C}$ とすると, 定理2.3より ${\bf p}+{\bf C}$ $A{\mathbf x} = {\bf b}$ の解となり, ${\bf p} = {\bf p}+{\bf C}$より ${\bf C} = {\bf0}$ となる. よって定理2.3より $0 = n - {\rm rank}(A)$ となり ${\rm rank}(A) = n$ を得る.

5) $\Rightarrow$ 6), 6) $\Rightarrow$ 1) は定理2.3である. $ \blacksquare$

行列式の計算のために便利なものを紹介します.1つはVandermondeの行列式と呼ばれるものです.ある微分方程式の解が

$\displaystyle y = c_1e^{ax} + c_2e^{bx} + c_3e^{cx}$

で与えられたとします.また、この解が次の初期条件を満たすとします. $y(0) = 1, y'(0) = 1, y''(0) = 1$. すると、次の連立方程式を得ます.
$\displaystyle 1$ $\displaystyle =$ $\displaystyle c_1 + c_2 + c_3$  
$\displaystyle 1$ $\displaystyle =$ $\displaystyle c_1 a + c_2 b + c_3 c$  
$\displaystyle 1$ $\displaystyle =$ $\displaystyle c_1 a^2 + c_2 b^2 + c_3 c^2$  

この式を行列を用いて書き直すと、

$\displaystyle \begin{pmatrix}1 & 1 & 1\\
a & b & c\\
a^2 & b^2 & c^2
\end{pma...
...{pmatrix}c_1\ c_2\ c_3\end{pmatrix} = \begin{pmatrix}1 \ 1\ 1
\end{pmatrix}$

この連立方程式の解をクラメールの公式で求めようとすると、分母には次のような行列式がでてきます.そこで、ここに出てきた行列の行列式を求めることを考えます.

$\displaystyle \det \begin{pmatrix}1 & 1 & 1\\
a & b & c\\
a^2 & b^2 & c^2
\en...
...1 & 1\\
0 & b-a & c-a\\
0 & b^2-a^2 & c^2-a^2
\end{pmatrix} = (c-a)(c-b)(b-a)$

この結果、行列式は2行目の成分を右端から順に引いていけば答えが出ます.これは、$n$次の正方行列にも当てはまり、Vandermondeの行列式と呼ばれるものです.

もう一つ便利なものに、行列のブロック分割を用いて行列式を求める方法があります. 行列Aを考えます.

$\displaystyle A = \begin{pmatrix}
a_{11} & a_{12} & a_{13} & a_{14} & a_{15}\ ...
... a_{44} & a_{45}\\
a_{51} & a_{52} & a_{53} & a_{54} & a_{55}\\
\end{pmatrix}$

この行列の3列目と4列目の間で縦にカットする.次に、4行目と5行目の間で横にカットすると、次の行列が生まれる.

$\displaystyle A_{11} = \begin{pmatrix}
a_{11} & a_{12} & a_{13} \\
a_{21} & a_...
...2} & a_{53}\end{pmatrix}, A_{22} = \begin{pmatrix}
a_{54} & a_{55}\end{pmatrix}$

これより、行列Aは次のようにブロック分割で表せます.

$\displaystyle A = \begin{pmatrix}A_{11} & A_{12}\ A_{21} & A_{22}\end{pmatrix}$

次に正方行列Xの行列式を求めることを考えます.行列Xを$A$をn行n列、$B$をm行m列の正方行列で分割します.このとき、次の式が成り立ちます.行列Oは零行列.

$\displaystyle 1. \det \begin{pmatrix}A & O\ O & B\end{pmatrix} = \det(A)\det(B)$      
$\displaystyle 2. \det \begin{pmatrix}A & C\ O & B\end{pmatrix} = \det(A)\det(B)$      

証明 まず、余因子展開により、 $\det \begin{pmatrix}A & O\ O & I\end{pmatrix} = \det(A)$. 次に、 $\det \begin{pmatrix}I & O\ O & B\end{pmatrix} = \det(B)$.ここで、

$\displaystyle \det \begin{pmatrix}A & 0\ O & B\end{pmatrix} = \det \begin{pmatrix}A & O\ O & I\end{pmatrix} \det \begin{pmatrix}I & O\ O & B\end{pmatrix}$

に注意すると、上記1.が示せます. 次に、上三角行列 $\det \begin{pmatrix}A & C\ O & B\end{pmatrix}$について、調べてみます.

$\displaystyle \begin{pmatrix}A & C\ O & B \end{pmatrix} = \begin{pmatrix}I & O\ O&B\end{pmatrix}\begin{pmatrix}A & C\ O & I\end{pmatrix}$

ここで、

$\displaystyle \det \begin{pmatrix}A & C\ O & I\end{pmatrix} = \det(A)$

を示します.

証明 $A$$n \times n$の正方行列、$I$$m\times m$の単位行列とする.このとき、 $X = \begin{pmatrix}A & C\ O & I\end{pmatrix}$とすると、

$\displaystyle \det(X) = \sum_{\sigma \in S_{n+m}}{\rm sgn}(\sigma)x_{1\sigma(1)}x_{2\sigma(2)}\cdots x_{n\sigma(n)}\cdots x_{n+m\sigma(n+m)}$

ここで、 $1 \leq i \leq n$および $n+1 \leq j \leq n+m$のとき、 $x_{i\sigma(j)} = 0$となる.また、 $n+1 \leq i \leq n+m$および $n+1 \leq j \leq n+m$のとき、

$\displaystyle x_{i\sigma(j)} = \left\{\begin{array}{l} 1  ,  i = \sigma(j)\\
0  ,  i \neq \sigma(j)
\end{array}\right.$

次に、

$\displaystyle \tau = \left(\begin{array}{lllll}1 & 2 & 3 & \ldots & n\\
\sigma(1) & \sigma(2) & \sigma(3) & \ldots & \sigma(n)
\end{array}\right)$

$\displaystyle \rho = \left(\begin{array}{lllll}n+1 & n+2 & n+3 & \ldots & n+m\\...
...igma(n+1) & \sigma(n+2) & \sigma(n+3) & \ldots & \sigma(n+m)
\end{array}\right)$

とおくと、 $\sigma = \tau\rho$で表される.ただし、 $\tau \in S_{n}$, $\rho \in S_{m}$. ここで、

$\displaystyle {\rm sgn}(\sigma) = {\rm sgn}(\tau \rho) = {\rm sgn}(\rho) {\rm sgn}(\rho)$

が成り立つ.したがって、
    $\displaystyle \det(X) = \sum_{\tau \rho}{\rm sgn}(\tau \rho)x_{1\tau(1)}x_{2\tau(2)}\ldots x_{n\tau(n)}x_{n+1\rho(n+1)}x_{n+2\rho(n+2)}\ldots x_{n+m\rho(n+m)}$  
    $\displaystyle \left(\sum_{\tau}{\rm sgn}(\tau)x_{1\tau(1)}x_{2\tau(2)}\ldots x_...
...o}{\rm sgn}(\rho)x_{n+1\rho(n+1)}x_{n+2}\rho(n+2)\ldots x_{n+m\rho(n+m)}\right)$  
    $\displaystyle = \det(A)\cdot 1 = \det(A)$  

演習問題2-8

1. 次の行列式の値を求めよ.

(a) $\left \vert \begin{array}{rrr}
2&-3&1\\
1&0&2\\
1&-1&1
\end{array}\right\vert $ (b) $\left \vert \begin{array}{rrrr}
2&4&0&5\\
1&-2&-1&3\\
1&2&3&0\\
3&3&-4&-4
\end{array}\right\vert $ (c) $\left \vert \begin{array}{ccccc}
0&0&0&1&0\\
0&1&0&0&0\\
0&0&0&0&1\\
1&0&0&0&0\\
0&0&1&0&0
\end{array}\right\vert$ (d) $\left\vert\begin{array}{rrrrr}
3 & 5 & 1 & 2 & -1\\
2 & 6 & 0 & 9 & 1\\
0 & 0 & 7 & 1 & 2\\
0 & 0 & 3 & 2 & 5\\
0 & 0 & 0 & 0 & -6
\end{array}\right\vert$

2. 次の行列式を因数分解せよ.

(a) $\left\vert\begin{array}{rrr}
1&a^2&(b+c)^2\\
1&b^2&(c+a)^2\\
1&c^2&(a+b)^2
\end{array}\right\vert $ (b) $\left\vert\begin{array}{rrr}
b+c&b&c\\
a&c+a&c\\
a&b&a+b
\end{array}\right\vert $ (c) $\left\vert\begin{array}{rrrr}
1&1&1&1\\
a & b & c & d\\
a^2 & b^2 & c^2 & d^2\\
a^3 & b^3 & c^3 & d^3
\end{array}\right\vert $ 3. 次の方程式を解け. $\left\vert\begin{array}{rrr}
1-x&2&2\\
2&2-x&1\\
2&1&2-x
\end{array}\right\vert = 0$

4. 平面上の2点 $(a_{1},a_{2}),(b_{1},b_{2})$ を通る直線の方程式は

$\displaystyle \left\vert\begin{array}{rrr}
x&y&1\\
a_{1}&a_{2}&1\\
b_{1}&b_{2}&1
\end{array}\right\vert = 0$

で与えられることを示せ.

5. 空間上の3点 $(a_{1},a_{2},a_{3}),(b_{1},b_{2},b_{3}),(c_{1},c_{2},c_{3})$ を通る平面の方程式は

$\displaystyle \left\vert\begin{array}{cccc}
x&y&z&1\\
a_{1}&a_{2}&a_{3}&1\\
b_{1}&b_{2}&b_{3}&1\\
c_{1}&c_{2}&c_{3}&1
\end{array}\right\vert = 0$

で与えられることを示せ.

6. 連立1次方程式 $A{\mathbf x} = {\bf0}$ ${\mathbf x} \neq {\bf0}$ となる基本解をもてば, $\vert A\vert = 0$ であることを示せ.

7. 次の連立1次方程式をクラメールの公式をもちいて解け.

(a) $\left\{\begin{array}{rrr}
x-3y&=&5\\
3x-5y&=&7
\end{array}\right . $

(b) $\left\{\begin{array}{rrr}
x+y+z&=&3\\
x+2y+2z&=&5\\
x+2y+3z&=&6
\end{array}\right . $