線形写像 が与えられたとき,
と
の基底の取り方によって
の行列表現が変わることを学びました.ここでは
の基底から
の基底に移す行列, 変換行列(transition matrix) と行列表現の関係について考えます.
解
まず,
となる行列を求める.
この例題をよく見ると,
が成り立っています.これは偶然でしょうか.行列表現と基底の変換行列の間ではこのようなことがいつも成り立っているのか考えてみましょう.
証明
演習問題3.2より
から
の基底の変換行列
は
次の正則行列で,
は
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ふたつの 次の正方行列
に対して,
を満たす
次の正則行列
が存在するとき,
と
は 相似(similar)であるといい,
と表します.
線形変換
の性質は行列表現と密接な関係をもっていますが, 基底のとり方によっては
のほうが
よりも分りやすい行列になることがあります.こんなときには
の性質は
よりも
で調べた方がよいでしょう.そこで残りの章は, 行列
に対して, 正則行列
をうまく選んで,
を簡単な行列(対角行列, 三角行列など)に直す方法について学びます.この簡単な形を行列の 標準形(canonical form) とよんでいます.
固有値と固有ベクトル
ここまで私たちは実数だけをスカラーとして用いてきましたが, そろそろ限界のようです.そこでこれからは, 断りがない限り複素数もスカラーとして用いることにします.複素数全体は で表し,
個の複素数の組を
で表します.
次の正方行列を
とし,
に対して,
をかき直すと,
解
.よって
の固有値は
この例題からもわかるように, 行列の成分がすべて実数でも固有値に複素数が表れることがあります.
解
よって,
の固有値は
である.次に
の固有ベクトルを求める.
に対する固有ベクトルは
を満たす0でない
なので, この連立方程式を解くと
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ケイリー・ハミルトンの定理
のとき,
解
を
次の正方行列,
とする.
を
の余因子行列とすると,
の成分は
の余因子で, その多項式の次数は最高でも
である.よって
固有空間
私たちの主題は正方行列 を正則行列
によって簡単な行列に変換すること, つまり
に相似な簡単な行列
を見つけることでした.そのための準備として次のようなベクトル空間を考えます.
次の正方行列
の固有値
に対する固有ベクトル全体と
ベクトルからなる集合
1.
の基底
から一般の基底
への変換行列
を求めよ.
2. の基底
から
への変換行列
は
次の正則行列であることを示せ.
3. 次の行列の固有値と固有空間を求めよ.
4. を満たす
次の正方行列
の固有値を求めよ.
5. 行列 の固有値を
とすると,
の固有値は
であることを証明せよ.
6.
とするとき, ケイリー・ハミルトンの定理をもちいて
を求めよ.
7. を2次の行列とするとき,
を満たす
をすべて求めよ.