4.1節で正方行列の対角化について考えました.ここではユニタリ行列によって対角化可能な正方行列について考えます.
まず 次の正方行列 がユニタリ行列 によって対角行列 に変換されたとします.ここで は対角行列なのであきらかに が成り立ちます.また より
逆に, が正規行列であるとすると, 定理4.1より適当なユニタリ行列 を用いて
となります.ここで両辺の対角成分を比較してみましょう. 成分を比較すると
これで正規行列はユニタリ行列により対角化可能であることがわかりました.正規行列とはそれ自身の共役転置行列との積が可換な行列のことなので, エルミート行列, ユニタリ行列も正規行列です.
実ベクトル空間上での内積は1章で定義しましたが, 同様なことが複素ベクトル空間上でも行なえます.
ある複素ベクトル空間のすべてのベクトル
とすべての複素数
に対して,
と
は同値.
解
をエルミート行列とすると, より
.よって は正規行列である.次に,
を の固有値とし, を に対する の固有ベクトルとすると定義4.2より
この例題からかわるように, がエルミート行列のとき, ユニタリ行列 で対角化された行列 の対角成分は実数です.とくに が実正方行列のとき, 次の定理が成り立ちます.
2次形式
任意の 次の実正方行列 , ベクトル
が与えられたとき,
また, が 次の実対称行列,
のとき,
解 であるから
つぎに変数の変換を考えてみましょう. が実対称行列ならば定理4.2より は直交行列で対角化可能です.そこで直交行列 を が対角行列になるように選び,
とおくと
また, これより次のことが分かります.
の固有値がすべて正であるならば, すべての
に対して,
である.このような2次形式を 正値2次形式(positive definite) といいます.
の固有値がすべて負であるならば, すべての
に対して,
である.このような2次形式を 負値2次形式(negative definite) といいます.
解 この2次形式の行列は
解 この2次形式の行列は
もともと正則行列は基本行列の積なので, 実際に対角化を行なう方法として基本変形を使う方法があった.
が複素正方行列のときも同じようなことができます.
任意の 次の複素正方行列 , ベクトル
が与えられたとき,
また, が 次のエルミート行列で
のとき,
1. 次の行列をユニタリ行列により対角行列に変換せよ.
2. 次の行列を直交行列により対角行列に変換せよ.
3. がユニタリ行列により対角行列に変換される条件を求めよ.
4. 次の2次形式を直交行列による変換により標準化せよ.
5. 次のエルミート行列をユニタリ行列による変換により標準化せよ.