スカラー場とベクトル場(scalar field and vector field)

空間の領域 $D$ の各点 ${\rm P}$ に対して実数 $f({\rm P})$ が対応しているとき, 3変数関数 $f({\rm P})$$D$ の上での スカラー場(scalar field) といいます.同様に空間の領域 $D$ の 各点 ${\rm P}$ に対してベクトル ${\bf F}({\rm P})$ が対応しているとき,3変数ベクトル関数 ${\bf F}({\rm P})$$D$ の上での ベクトル場(vector field) といいます.ベクトル ${\bf F}$ の成分表示を ${\bf F} = (F_{1}, F_{2}, F_{3})$ とすると,

$\displaystyle {\bf F}({\rm P}) = (F_{1}(x,y,z),F_{2}(x,y,z),F_{3}(x,y,z))$

となります.また, $F_{1}, F_{2}, F_{3}$ が連続なとき, ${\bf F}$ は連続であるといいます.

例題 8..5  

ベクトル場 $\displaystyle{{\bf F}(x,y) = (-y,x)}$ をグラフで表わしてみましょう.

$xy$ 平面上の点 $(x,y)$ に対して,ベクトル $(-y,x)$ が対応しているので,グラフを描こうとすると4次元の空間が必要になります.残念ながら4次元の空間は用意できないので,次のような方法を用いてベクトル場を表現します.まず, $xy$ 平面上の点 $(x_{0},y_{0})$ を選んだら,その点におけるベクトル ${\bf F}(x_{0},y_{0})$ を,点 $(x_{0},y_{0})$ を始点として描きます.

$\displaystyle {\bf F}(1,0) = (0,1), {\bf F}(2,-1) = (1,2), {\bf F}(3,2) = (-2,3)$

より図8.2を得ます.

図: ベクトル場
\begin{figure}\begin{center}
\includegraphics[width=5cm]{CALCFIG/Fig8-2-1.eps}
\end{center}\vskip -1cm
\end{figure}

8.2をみていると,ベクトルがある曲線の接線になっていることに気づきます.この曲線を 流線(streamlines)または 力線(lines of force) といいます.一般に,Fが流体の速度を表わすときには,流れに沿って引いた曲線を流線といい,Fが磁場を表わすときは,磁場の向きに沿って引いた曲線を磁力線といいます.同様に,Fが電場を表わすときは,電場の向きに沿って引いた曲線を電力線,Fが電磁場を表わすときは,電磁場の向きに沿って引いた曲線を電磁力線といいます.

例題 8..6  

ベクトル場 $\displaystyle{{\bf F}(x,y) = (-y,x)}$ の流線を求めてみましょう.

$f(x,y) = c$ を流線の方程式とすると $\nabla f(x,y) = (f_{x},f_{y})$ $f(x,y) = c$ の法線ベクトルを表わすので,

$\displaystyle \nabla f(x,y) \cdot {\bf F}(x,y) = 0 \ よって \ (f_{x},f_{y}) \cdot (-y,x) = 0 $

これより, $-y f_{x} + xf_{y} = 0$.ここで $f(x,y) = c$ の接線の傾きは

$\displaystyle f_{x}dx + f_{y} dy = 0より\frac{dy}{dx} = - \frac{f_{x}}{f_{y}} $

に注意すると

$\displaystyle \frac{dy}{dx} = - \frac{f_{x}}{f_{y}} = - \frac{x}{y} $

より $x dx + y dy = 0$.これより $f_{x} = x, f_{y} = y$ となるので,

$\displaystyle f(x,y) = \int f_{x}dx = \frac{x^2}{2} + c(y) \ $ (8.1)

次に式8.1$y$ で偏微分すると

$\displaystyle f_{y} = c'(y) = y よりc(y) = \frac{y^2}{2} $

よって求める流線は

$\displaystyle f(x,y) = \frac{x^2}{2} + \frac{y^2}{2} = c
\ensuremath{\ \blacksquare}
$

砂場に磁石を持っていって砂鉄を集めてきます.この砂鉄を紙の上に撒き,紙の下にU磁石を置くと砂鉄は磁力線に沿って並び,磁場が強いところほどたくさんの砂鉄がつくことを観察したことがあるでしょう.ここではこれらの現象を考えてみます.

電場(electric field)

電荷$q$ から点Pまでの距離を $r$ とし, $q$ からPに向かう単位ベクトルを ${\bf r}_{0}$ とすると,点Pにおける電場は次式で与えられます.

$\displaystyle {\bf E} = \frac{1}{4\pi \epsilon_{0}}\frac{q}{r^2} {\bf r}_{0} $

ただし, $\epsilon_{0} = 8.85418782\times 10^{-12} [{\rm s^2C^2/kgm^2}]$ で真空の誘電率といいます.

万有引力場(universal gravitational field)

原点にある物質量$M$ の物体が点P $(x,y,z)$ にある物質量 $m$ の物体にはたらく万有引力場(一般に万有引力とよばれる)を Fすると

$\displaystyle {\bf F} = - \frac{\kappa Mm}{r^3}(x,y,z) = - \frac{\kappa Mm}{\Vert{\bf r}\Vert^3}{\bf r} $

で与えられます.

さて, $f(x,y)$ の全微分を考えたとき,ベクトル $(f_{x}(x,y), f_{y}(x,y))$$f(x,y)$ の勾配とよび, $\nabla f(x,y)$ で表わしました.また,勾配は等高線に直交するベクトルだということも学びました.ここでは空間のある領域で定義されたスカラー場に対し,

$\displaystyle \nabla f = (f_{x},f_{y},f_{z}) $

で定義されるベクトル場 ${\rm grad} f$ について考えてみます.ここで $\nabla f$$f(x,y,z)$ に演算子

$\displaystyle \nabla = (\frac{\partial}{\partial x}, \frac{\partial}{\partial y},\frac{\partial}{\partial z}) $

をほどこしたものとみることができます.

スカラー場 $f$ に対して, $f(x,y,z) = c \ (c 定数)$ で定義される曲面を,スカラー場 $f$等位面(level surface) といい, $c$ の値を変化させて得られる等位面の群を等位面群といいます.

例題 8..7  

$\displaystyle{(x_{0},y_{0},z_{0})}$ を通る勾配は,点 $\displaystyle{(x_{0},y_{0},z_{0})}$ を通る等位面に直交することを示してみましょう.

$(x_{0},y_{0},z_{0})$ を通る等位面を

$\displaystyle f(x,y,z) = c $

とし,この等位面上で点 $(x_{0},y_{0},z_{0})$ を通る任意の曲線を

$\displaystyle {\bf r} = {\bf r}(t) = (x(t),y(t),z(t)) $

とすると, $f({\bf r}(t)) = f(x(t),y(t),z(t)) = c$ が成り立つので,この両辺を $t$ について微分すると,

$\displaystyle f_{x}x_{t} + f_{y}y_{t} + f_{z}z_{t} = (f_{x},f_{y},f_{z})\cdot (x_{t},y_{t},z_{t}) = \nabla f \cdot \frac{d {\bf r}}{dt} = 0 $

よって,すべての等位面上の曲線の接線に直交するので,勾配は等位面に直交します. $\ \blacksquare$

点Pにおいて 単位ベクトル $\hat{\bf u}$ を方向単位ベクトルとします.また,点Pを通り $\hat{\bf u}$ を方向ベクトルとする直線を,点Pからの距離$s$ を用いて, ${\bf r}(s)$ で表わします.すると点Pにおける,スカラー場 $f$ $\hat{\bf u}$方向の方向微分は

$\displaystyle \frac{{df({\bf r}(s))}}{du} = \lim_{s\to 0}\frac{f(p+s\hat{\bf u})-f(p)}{s} $

で与えられます(6.5参照). よって
$\displaystyle \frac{df({\bf r}(s))}{du}$ $\displaystyle =$ $\displaystyle \lim_{s\to 0}\frac{f(p+s\hat{\bf u})-f(p)}{s}$  
  $\displaystyle =$ $\displaystyle \frac{d}{ds}f(x(s),y(s),z(s)) \mid_{s=0}$  
  $\displaystyle =$ $\displaystyle f_{x}x_{s} + f_{y}y_{s} + f_{z}z_{s}$  
  $\displaystyle =$ $\displaystyle \nabla f \cdot \frac{d {\bf r}}{ds} = \nabla f \cdot \hat{\bf u}$  

例題 8..8  

$(1,2,3)$ で曲面 $\displaystyle{z^{2} = x^{2} + 2y^{2}}$ に直交する単位ベクトル (法線単位ベクトル) と $(1,3,-1)$方向の方向微分と椄平面の方程式を求めてみましょう.

$\displaystyle f(x,y,z)=x^{2}+2y^{2}-z^{2} とおくと,$

等位面 $f(x,y,z)=0$ はもとの曲面と同じ.また, 法線ベクトルは $\nabla f$ で与えられるので,

$\displaystyle \nabla f = (2x, 4y, -2z), \nabla f \mid_{(1,2,3)} = (2,8,-6)$

よって

$\displaystyle \hat{\bf n} = \frac{\nabla f}{\Vert\nabla f\Vert} = \frac{(2,8,-6)}{\sqrt{4+64 +36}} = \frac{(2,8,-6)}{\sqrt{104}} $

次に点 $(1,2,3)$ での $(1,3,-1)$方向の方向微分を求めるため方向単位ベクトルを求めると $\displaystyle{\hat{\bf u} = \frac{(1,3,-1)}{\sqrt{11}}}$.よって方向微分は

$\displaystyle \nabla f \cdot \hat{\bf u} = (2,8,-6) \cdot \frac{(1,3,-1)}{\sqrt{11}} = \frac{32}{\sqrt{11}} $

また,椄平面の方程式は

$\displaystyle 2(x-1) + 8(y-2) - 6(z - 3) = 0 すなわち 2x + 8y - 6z = 0 $

となります. $\ \blacksquare$

点Pの位置ベクトルを ${\bf r} = (x,y,z), r = \Vert{\bf r}\Vert = \sqrt{x^2 + y^2 + z^2}$ とすると,万有引力の大きさや光の強さなど距離に反比例するものは少なくありません. これらは

$\displaystyle f(x,y,z) = \frac{c}{r} = \frac{c}{\sqrt{x^2 + y^2 + z^2}} $

とおけます.ここで $f(x,y,z)$ の勾配を求めてみると,
$\displaystyle f_{x}$ $\displaystyle =$ $\displaystyle c\frac{\partial}{\partial x}(x^{2}+y^{2}+x^{2})^{-\frac{1}{2}} = ...
...1}{2}(x^{2}+y^{2}+z^{2})^{-\frac{3}{2}}(2x) = \frac{-cx}{\Vert{\bf r}\Vert^{3}}$  
$\displaystyle f_{y}$ $\displaystyle =$ $\displaystyle \frac{-cy}{\Vert{\bf r}\Vert^{3}}$  
$\displaystyle f_{z}$ $\displaystyle =$ $\displaystyle \frac{-cz}{\Vert{\bf r}\Vert^{3}}$  

より

$\displaystyle \nabla f = (f_{x},f_{y},f_{z}) = (\frac{-cx}{r^{3}},\frac{-cy}{r^{3}},\frac{-cz}{r^{3}}) = -c \frac{{\bf r}}{r^3} $

したがって, $\nabla f$ は万有引力場つまりベクトル場と等しくなります.このように

定義 8..1  

ベクトル場 ${\bf F}$ がスカラー場 $f$ の勾配であるとき,つまり $\nabla f = {\bf F}$ のとき ベクトル場 ${\bf F}$保存場(conservative field) という.また,このときスカラー場 $f$ を ベクトル場 ${\bf F}$スカラーポテンシャル(scalar potential) といい,Fはスカラーポテンシャル $f$ をもつという.


例題 8..9  

${\rm P}(x,y,z)$ の位置ベクトルを ${\bf r} = (x,y,z)$, ベクトル場を $\displaystyle{{\bf F} = \frac{{\bf r}}{\Vert{\bf r}\Vert}}$ とすると, このベクトル場は原点を除くどの領域でも保存場であり

$\displaystyle f(x,y,z) = \Vert{\bf r}\Vert = (x^{2}+y^{2}+z^{2})^{1/2}$

${\bf F}$ のスカラーポテンシャルであることを示してみましょう.


$\displaystyle f_{x}$ $\displaystyle =$ $\displaystyle \frac{\partial}{\partial x}(x^{2}+y^{2}+x^{2})^{\frac{1}{2}} = \frac{1}{2}(x^{2}+y^{2}+z^{2})^{-\frac{1}{2}}(2x) = \frac{x}{\Vert{\bf r}\Vert}$  
$\displaystyle f_{y}$ $\displaystyle =$ $\displaystyle \frac{y}{\Vert{\bf r}\Vert}$  
$\displaystyle f_{z}$ $\displaystyle =$ $\displaystyle \frac{z}{\Vert{\bf r}\Vert}$  

より $\nabla f=(f_{x},f_{y},f_{z}) = {\bf F}$. よって, ${\bf F}$ は保存場であり

$\displaystyle f(x,y,z) = {\Vert{\bf r}\Vert} = (x^{2}+y^{2}+z^{2})^{1/2}$

${\bf F}$ のスカラーポテンシャルとなります. $\ \blacksquare$

演習問題


1.
次の曲面の法線単位ベクトルと接平面を与えられた点で求めよう.

(a) $\displaystyle{z = (x^2 - y^2) : \ \mbox{点} \ (1,1,0)}$ (b) $\displaystyle{2x - 4y^2 + z^3 = 0 : \ \mbox{点} \ (-4,0,2)}$

(c) $\displaystyle{\cos{x} + \sin{y} + z = 1 : \ \mbox{点} \ (0, \pi,0)}$

2.
中心が原点にある鉄球の密度は次の関数で与えられている. $\rho(x,y,z) = ke^{-(x^2 + y^2 + z^2)}$

(a)$(1,0,1)$ ではどの方向が密度の増加が一番大きいか求めよう.

(b)$(1,0,1)$ ではどの方向が密度の増加が一番小さいか求めよう.

3.
次のベクトル場Fの力線を求めよう.

(a) ${\bf F}(x,y) = (-2y,x)$ (b) ${\bf F}(x,y) = (x,-y)$