1章で極限値について学びましたが,
のとき
だとすると,
はどうなるのでしょうか.この場合を形式的に
と書くことにすると,同じように極限値が明白でない場合が,和,差,積,商,累乗などのときにも起こります.例えば,
などです.このような場合をまとめて不定形(indeterminate form) といいます.1章でも不定形の極限値を求めましたが,複雑なテクニックを覚えなければならず,数学をつまらないと感じた人も少なくないでしょう.そこでここでは,不定形の極限値を微分法を使って求める方法について考えてみましょう.この方法のもとになっているものに,フランスの数学者 Augustine Louis Cauchy (1789-1854) によって一般化された Cauchyの定理とよばれている定理があります.
定理 2..14
[Cauchyの平均値の定理]
つの関数 は閉区間 で連続,開区間 で微分可能とする.
で,しかも
と
が同時に 0 にならないならば,
を満たす が少なくとも つ存在する.
平均値の定理を に適用すると,
となり,これより両辺の商を求めると,
残念ながら と の値は一般に等しくないので,この方法ではCauchyの平均値の定理は得
られません.
証明
平均値の定理のときと同じように,Rolleの定理の条件を満たすような関数を考えます.
という関数を考えると,
となり, はRolleの定理の条件を満たす.したがって,Rolleの定理より,
を満たす が少なくとも1つ存在する.ところで,
より,
ならば
となり仮定に反する.したがって,
となり,
を得る.
極限値を求めるのに苦労した人もいると思いますが,次の定理はそんな人の味方です.この定理はフランスの数学者 G. F. A. L'Hospital (1661-1704) の名前をとってつけられました.最初に証明したのは彼の先生の Jakob Bernoulli (1654-1705)です.
定理 2..15
[L'Hospitalの定理]
つの関数 は閉区間 で連続,開区間 で微分可能とする.
で,しかも
が存在するならば,
である.
証明
である をとると,Cauchyの平均値の定理より,
を満たす が少なくとも1つ存在する.したがって,
この定理は
の場合も成り立ちます.
例題 2..30
次の極限値を求めてみましょう.
解
これは
の形の不定形です.そこで,分母,分子を別々に微分し,その商の極限値を求めると,
これも
の形の不定形です.そこでもう一度,分母,分子を別々に微分し,その商の極限値を求めると,
これもまた,
の形の不定形です.そこでもう一度,分母,分子を別々に微分し,その商の極限値を求めると,
したがって,L'Hospitalの定理を順に使うことにより,
となります.
さてL'Hospitalの定理は
の不定形のときにしか使えないのでその他の不定形のときは,次のようにして
の形に変形します.
(1)
の場合,
に変形
例題 2..31
を求めてみましょう.
解
これは
の不定形をしています.そこで
を
と書き直すと
の不定形になり,L'Hospitalの定理より
ここで
より極限値は存在しません.
不注意で
にL'Hospitalの定理を用いると
よって,
と書きたくなりますが,これは間違いです.
(2)
の場合,
に変形
例題 2..32
を求めてみましょう.
解
これは
の不定形をしています.そこで
を
と書き直すと
の不定形になり,L'Hospitalの定理より
よって
となります.
(3)
または
の場合,
または
に変形
例題 2..33
を求めてみましょう.
解
これは
の不定形をしています.そこで
を
と書き直すと
は
の不定形なので
を
と書き直すと,
の不定形になり,L'Hospital の定理より
となります.
確認問題
- 1.
- 次の極限値を求めよう.
(a)
(b)
(c)
(d)
(e)
(f)
(g)
(h)
演習問題
- 1.
- 次の極限値を求めよう.
(a)
(b)
(c)
(d)
(e)
(f)
(g)
(h)