関数の極限の話の前に,ギリシャの韋駄天Achillesとtortoiseの話をします.この話はZenon(B.C490-429)の逆説として人々を悩ませました.いろいろなかたちで伝わっていますが,ここではこれから極限を習うことを前提にした話にします.あるときAchilles(アキレス)がtortoise(カメ)を追いかけていました.アキレスがカメのいた位置に来たときにはカメはどんなに遅くともいささか前に進んでいます.次にアキレスがカメがいた位置に来たときには,またいささかでもとにかく前に進んでいます.この調子なので,アキレスはカメに追いつくことはできない,というのが,Zenonの逆説です.アキレスはカメに追いつけるのでしょうか.考えてみて下さい.
さて,ここで限りなく近づくというのはどういうことでしょうか. が に限りなく近づくとは,絶対値
を限りなく小さくできるということと同じだと考えてもよいでしょう.同様に, が定数 に限りなく近づくということも
を限りなく小さくできることだと考えてもよいでしょう.そこで,限りなく小さくできるということで考えてみると,どんな小さな正の数を比較の相手と選んでも,それよりも小さくできるならば,限りなく小さくできるといえるのではないでしょうか.この考え方が数学でいうところの限りなく小さいということなのです(納得しましたか?).これを用いて関数の極限をもう一度定義します.この定義は
論法と呼ばれる証明法のもとになっていて,この章の定理の証明に用いますが,難しく感じる人は,直感的極限値で十分です.
解 どんな に対しても, のとき が成り立つような が存在することを示せばよいでしょう.そこで, と を比較すると
解 どんな に対しても, のとき が成り立つような が存在することを示せばよいでしょう.そこで, と を比較すると
を定義にもとづいて証明するのは簡単ではありませんでした.そこで定義を使わずに極限値を求められるようになるように,次の定理を学びます.
証明
(3)の証明. どんな
に対しても
のとき,
が成り立つような
が存在することを示せばよいでしょう.
(i) のとき, となる が存在する.
(ii) のとき, となる が存在する.
(iii) のとき, となる が存在する.
よって
とすると,
のとき,
解 .よって定理1.3より
この定理の(4)は,有理関数の分母と分子の極限値が0でなければ,有理関数の極限値は分子と分母の極限値の商をとればよいといっています.では,分母の極限値が0だったらどうなるのでしょうか.まず,分母の極限値だけ0の場合について考えます.
証明 もし,極限値が存在したら,
解 まず,の極限値は となります.次に, の極限値は となります.したがって,定理1.3より, は存在しない. では,分母と分子の極限値が共に0だったらどうなるのでしょうか.このときの形を不定形(indeterminate)といって,極限値の問題はいかに不定形の問題を解くかということに集約されます.
解 まず, のとき, .また .つまり,分子,分母とも を共通因子に持っていることが分かります.そこでのとき,分子,分母から をくくりだすと
実際に極限値を求めるには上の定理だけでは不十分です.例えば, の極限値は上で用いた方法では求められません.そんなとき便利なものに,次のようなものがあります.
証明 どんな に対しても, のとき, が成り立つような が存在することを示せばよいでしょう.
より,どんな に対しても が存在し, のとき, である.
同様に, より,どんな に対しても が存在し, のとき, である.よって とおくと,
解 図1.12 において原点をOとし,単位円の周上に を取り, OP の延長線と OA に垂直な線の交点を B とします.またP から下ろした OA への垂線と OAの交点を Cとします.そのとき,面積を比較すると が成り立ちます.ここで, に対して,
解
は,が小さいとき,とはほぼ同じ大きさであることを示していることに注意する.