2点 R,Q を結ぶ曲線 が与えられているとします. ただし,この曲線は滑らかな曲線とします. に沿って測った弧長を とします.すると2章で学んだように曲線上の点
は弧長 をパラメターとして表わすことができます.よって曲線 の方程式は
で表わせます.ただし
にはそれぞれ点 R,Q が対応しているとします.このとき曲線
上の任意の点P に対して定義されたスカラー場を
とします.
曲線 を 個の弧
に分割し,この分割を で表します.各曲線 の弧長を
とし, の中に任意の点
をとり次の和を考えます.
ここで,この分割を細かくし を限りなく小さくしたとき が極限値 に近づくならば,この極限値 をスカラー場 の に沿っての 線積分(line integral) といい,
で表わします.曲線 が閉じているときは
と表わします.
線積分の定義は,今までの積分と同じRiemann和によるものなので,線積分においても次の公式が成り立つのは明らかです.
また,曲線 が滑らかではないが有限個の滑らかな曲線
をつなげてできているとき,この曲線を 区分的に滑らかな曲線(piecewise smooth curve) といい,このような曲線に沿っての線積分は
で表わせます.
例題 3..7
を線積分してみましょう.ただし, は点 と を結ぶ直線とします.
解
点 と点 を結ぶ直線をパラメター表示すると
となります.よって曲線 は
で表され,曲線 の弧長 は
となります.これより
となり,求める線積分は
ベクトル場の線積分
次に向きのついた曲線
と の上で定義されたベクトル場
が与えられているとします.ここで の接線単位ベクトル を曲線 の正の方向(長さが増加する方向)での接線単位ベクトルとします.すると
は 上で定義されたスカラー場となるので,このスカラー場の曲線 に沿っての線積分は
で表わせ,これをベクトル場
の向きのついた曲線 に沿っての線積分といいます.特に
に注意すると
で表わすことができます.
図:
ベクトル場の線積分
|
ここでベクトル場
が電場の場合を考えると,
は正の電荷が点Pから点Sまで曲線 にそって移動するとき,電場
が行なう単位電荷あたりの仕事と考えることができ,これを2点間の電位差または電圧といいます.
例題 3..8
質点が楕円
の回りを一周するのに行なった仕事量を求めてみましょう.ただし,ベクトル場は
解
とおくと.
また,
よって
例題 3..9
を求めてみましょう.ただし, は曲線
の点 と点 を結ぶ曲線とします.
解
別解
曲線 をパラメターで表示すると
よって
これより
この例題で を曲線 の向きを から に変えた曲線とすると,
曲線 のパラメター表示は
となります.よって
これより,
ここで とおくと, より
よって,
となります.
これまでに保存場では,ベクトル場はスカラー場の勾配と大きさが等しくなることをすでに学びました.では線積分との関係においては,どんなことが成り立つのか調べてみましょう.
定理 3..1
ベクトル場
では次の条件は同値である.
(1)
となるスカラー関数
が存在する.(
は保存場)
(2) 任意の閉曲線 について
が成り立つ (積分経路無関係).
|
|
位置エネルギー
力の場
がポテンシャルをもつとします.つまり,
が成り立つとします.この力の場内に曲線を考え,曲線は点PからQに至るとします.質点がこの力の場の作用を受けながら,この曲線に沿って点PからQまで移動したとき,この質点が
から受ける仕事量は
となり,2点P,Qを結ぶ曲線の選び方に関係しません.そこで,ポテンシャルの点Pに値
を,この力の場の点Pにおける位置エネルギー(potential energy)といいます.
例題 3..10
,
とすると,ベクトル場
はスカラーポテンシャル
をもつことを示し,空間の各点における位置エネルギーを求めよう.
解
より,
.
または,
これより,
となり,ベクトル場
はポテンシャル
をもちます.したがって,点Pにおける位置エネルギーは
となります.
問 3..1
力の場
がポテンシャルをもつとする.この力の場内で質量の質点が運動して,点Aから点Bまで移動したとき,次の式が成り立つことを証明せよ.
ここで,
はそれぞれ点A,Bにおけるこの質点の速度ベクトルの大きさである.
演習問題3.3
- 1.
- 力の場
の中で質点が曲線
に沿ってからまで運動する間に力
がする仕事量
を求めよ.
- 2.
- スカラー場
,ベクトル場
がある.媒介変数表示
で表される曲線をとする.次の線積分を求めよ.
(1)
(2)
- 3.
-
とする.任意の閉曲線について
であることを証明せよ.
- 4.
- 力の場
がポテンシャルをもつとする.この力の場内で質量の質点が運動して,点Aから点Bまで移動したとき,次の式が成り立つことを証明せよ.
ここで,
はそれぞれ点A,Bにおけるこの質点の速度ベクトルの大きさである.
- 5.
- 全空間から軸を除外した領域で
は定義されている.平面上で原点Oを中心とし,半径の円をとする.次の等式を証明せよ.