ふたつのベクトルの外積を考えるために幾何ベクトルに戻ります.外積の定義は内積ほど簡単ではありませんが応用数学には欠かせないものです.ここでは外積の応用を3次元空間に限ります.他の空間には外積のやさしい一般化がないのです.
3次元空間では と の外積は次の式で定義される.
解
力学で点 のまわりの力F の モーメント(moment) は, から力F の作用線までの距離を とするとき, で与えられます.rを力の作用線上の任意の点 と を結ぶベクトルだとすると, .よって
このとき, を点 のまわりの力F の モーメントベクトル(moment vector) といいます.
ある軸のまわりの剛体の回転は, 次のようにして, 角速度ベクトル(angular velocity) により一意的に表せます.ここで角速度ベクトル とは剛体を右ねじが回転する方向に回すとき, ねじの進む方向が であり, の大きさが回転の角速度となるベクトルのことです.剛体内の点 の速度ベクトル v は, 回転軸上の任意の点と を結ぶベクトルを r とすると, 次の式で表せます.
3つのベクトル A,B,C に対して, は実数となるのでスカラー三重積(scalar triple product) といい, はベクトルになるので, ベクトル三重積(vector triple product) といいます.
ベクトル三重積 は B とC が作る平面上のベクトルです.よって, B とC が平行でなければ, は次の式で表されます.
1次結合
ベクトル空間では和とスカラー倍は基本です.和はふたつのベクトル間の演算ですが, ベクトル空間では結合法則が成り立つので, 3つ, 4つとベクトルを加えることができます.このようにして作ったものをベクトルの1次結合といいます.
ここで注意しておきたいことは, ベクトル空間 のどんなベクトルによる1次結合も, また のベクトルになるということです.
次に, 連続関数 の1次結合をいくつか考えてみましょう.
1次結合はすべての が0のとき, 0ベクトルになりますがその他のときも, 0ベクトルになることがあるでしょうか.上の例 を見て下さい. は0です.このように, 0でない を使って作った1次結合が0と等しくなるとき, ベクトルの組 は1次従属であるといいます. またそういう が存在しないとき, ベクトルの組は1次独立であるといいます.
解 より となるので, は1次独立である.
解 の1次結合は .これを書き直して0 とおくと,
解 の1次結合を 0 とおくと,
上の例題をもう少し注意深くみると, と表せることがかわります.一般に次のことがいえます.
逆に, 数個のベクトルが互いに1次従属ならば, そのうちの 個は残りのベクトルの1次結合で表される.
証明
逆に, が1次従属ならば, 関係式
幾何ベクトルが1次独立かでないかを調べるとき, スカラー三重積を使うと簡単に調べられます.つまり
証明 演習問題1.3よりスカラー三重積は平行六面体の体積と考えられる.したがって, は A,B,C が同一平面上にあることと同値である.また, 定理1.1よりこれは A,B,C が1次従属であるのと同値である.
解 .よって1次独立である.
1. について,
2. 点(1,0,1)を通り, と によって作られる平面に平行な平面を求めよ.
3. 2点 を通り平面 に垂直な平面の方程式を求めよ.
4. を2辺とする三角形の面積を求めよ.
5. のとき, 点 のまわりの力F のモーメントベクトルを求めよ.
6. 剛体が直線 のまわりを角速度ベクトル で回転しているとき, 剛体内の点 の速度を求めよ.
7. 3つのベクトル A,B,C の作る平行六面体の体積は, スカラー三重積
8. で のとき, を求めよ.
9. は1次独立か1次従属か調べよ.
10. 次の関数はどの区間 でも1次独立であることを示せ.
11. 幾何ベクトル A, B が1次独立であるための必要十分条件は であることを示せ.