区分的に連続な関数
ここでは幾何ベクトル空間には似ても似つかないベクトル空間を紹介します.まず区間 で連続な関数の集まりを で表し, 区間 で区分的に連続な関数(piecewise continuous function) の集まりを で表します. 関数が区間で区分的に連続とは、
ここで、 と の と に対して, 和およびスカラー倍を次のように定義します.
1. は点 で の値をとる関数.
2. は点 で
の値をとる関数.
解
この和とスカラー倍によって, ベクトル空間になるための9個の性質が
と において成り立ちます.
これより, ベクトル空間に含まれる や をベクトルとよぶことができます.幾何ベクトルと姿や形が違いますが立派なベクトルです.ベクトル空間の中には大きさや方向を考える必要のないものもありますが, 大きさを与えることのできるベクトル空間を 計量ベクトル空間(normed vector space) といいます.ここでは内積が定義できる計量ベクトル空間について考えます.
内積
幾何ベクトルにおいて次の3つのことは基本です.(1)和, (2)スカラー倍, (3)内積(スカラー積).
和とスカラー倍については、すでに学んだので、ここでは幾何ベクトルの内積について紹介します.
0でないベクトルA, Bとそれらのなす角を とします.このとき, 実数 をAとBの内積(dot product)またはスカラー積といい と表します.つまり
これまでに私たちは和およびスカラー倍の一般化を行いました.そこでここでは内積の一般化に挑戦します.
あるベクトル空間のすべてのベクトル とすべての実数 に対して,
解
A とB のなす角を , A とA+B のなす角を ,A とC のなす角を とすると,
1.
解 を の任意の元とすると,
解
ベクトル空間上に内積が定義されると, ノーム(ベクトルの大きさ)が定義されます.
よって、内積の性質より、ノームは次の性質を持っている.
すべてのベクトル とすべての実数 に対して,
例えば、幾何ベクトル空間では, となるのでA の長さと同じです.3次元ベクトル空間では
このノームの他にも、 でよく用いられるものに、 ノームがあります.
解
ノームもノームと同様に次の性質を持っています.
すべてのベクトル とすべての実数 に対して,
直交
2つの幾何ベクトルが直交すると、 で となるので、内積は零.また、 が零ベクトルでなく、内積が零ならば、 となり、とは直交していることが分かります.
このように、ベクトル空間に内積が定義されると, ノームだけでなく垂直という概念の一般化として直交を定義できます.
幾何ベクトル空間では, 有向線分A,B の内積 は例題 1.2より で与えられるので, もし0でない有向線分A,B に対して, 内積 ならば .つまり, A とB は垂直となります.
3次元ベクトル空間でベクトル の内積は例題1.2より, , また3次元ベクトルを幾何ベクトルと考えると,
解
平面の方程式
空間の中に直交座標系を取り, 平面を考えます.平面とはある点を通り, その法ベクトルが一定な面と考えることができます.ここで, 法ベクトル(normal vector) とは, 面に接するベクトルに直交するベクトルのことです.内積を使うと簡単にこの平面の方程式が求まります.まず点 を求める平面上の点とします.そしてN = をその平面の法ベクトルとします. を原点と点 を結ぶ位置ベクトル, rを原点と点 以外の平面上の点を結ぶ位置ベクトルとします.すると は平面上のベクトルとなるので, とN の間の角は .よって となり, これが求める平面の方程式です.
解 位置ベクトル rを()とすると, 平面の方程式は
解 で
関数空間での直交は直角に交わるということではありませんので注意して下さい.
0でない幾何ベクトル Aをその大きさで割り, 単位ベクトル を求めることがよくあります.もっと一般的な場合にもベクトル vをそのノームで割り, 単位ベクトル を求めることがあります.このようにして大きさが1のベクトルを求めることを, 正規化(normalize)するといいます.また, 直交系のすべてのベクトルを正規化してできた集合を 正規直交系(orthonormal system) といいます.正規直交系の例として3次元ベクトル空間での{i,j,k} があげられます.なぜこれが大事なのか次の節ではっきりするでしょう.
解
のとき,
この正規直交系を用いると, 区分的に連続な関数 は, 次の式で表現することができます.
解
解
1. について, 次の値を求めよ.
(a) (b) (c) A とB のなす角 (d) A方向の単位ベクトル
2. 次の集合のうち直交系はどれか.また直交系は対応する正規直交系を求めよ.
3. 点 を通り, 法ベクトルが2i + j - kである平面の方程式を求めよ.
4. A,Bを空間のベクトルとするとき, 次の不等式を証明せよ.
5. A, B, Cを空間のベクトルとするとき, 次の不等式を証明せよ.
6. を の関数とするとき, 次の不等式を証明せよ.
7. において, 次の関数のノームを求めよ.
8. 次にあげる3個の多項式はLegendreの多項式とよばれるものです.