Jordanブロック
次の形をした次正方行列を, 複素数に対する次のJordanブロック (Jordan block)またはJordan細胞いう.
例題 5..1
次のJordanブロックを表そう.
解
いくつかのJordanブロックを対角線に沿って並べて得られる行列
をJordan行列(Jordan form)といいます.
ベキ零行列の標準形
任意の次正方行列 は適当な正則行列 をとり をJordan行列にできるでしょうか.まず, がベキ零行列の場合を考えてみましょう.
行列をベキ零行列とすると, ベキ零行列の定義より
となる整数が存在します.ここで
とおき, 部分空間の列
を考えます.ここで
とおきます.
を に属する1次独立なベクトルで
を満たすものとします.このとき次の個のベクトル
は1次独立になります.なぜならば, これらのベクトルの1次結合を0とおくと
この式の両辺に左からをかけると, 第2項以下の和は0となり
を得ます.したがって,
となりますが, 仮定
より
でなければなりません.以下同様にこの手続きを繰り返せば,
を得ます.
次に, 以下の条件を満たすベクトル
を考えます.
このとき次の個のベクトルと(*)のベクトルを合わせたものも1次独立となります.
同様に, 以下の条件を満たすベクトル
を考えます.
以下この議論を繰り返すことができ, 最終的に次のベクトル全体は
の基底になります.
そして, 各部分空間
は-不変となります.そこで, 行列
にを左からかけると
が成り立ちます.他の部分空間についても同様なので,
とおくと, は正則行列になり
を得ることができます.このようにしてできたJordan行列をのJordan標準形(Jordan canonical form)いいます.ここまでをまとめると次の定理を得ます.
定理 5..3
を次の正方行列とする.このとき適当な正則行列により
の形に表される.ここで
である.
例題 5..2
次のベキ零行列のJordan標準形を求めよう.
解 はを満たすので, 指数2のベキ零行列である.
よって, の固有値は0だけであり, 固有値0に対する広義固有空間を考える.
より,
である.
であるから,
.そこで, 例えば,
をとると
,
である.は2次元であるから
と1次独立なベクトル
がとれる.このとき
は
の基底である.
とおくと
となる.
Jordan標準形
定理 5..4
を次の正方行列, その固有多項式を
とする.このとき適当な正則行列により
の形に表される.ここで
である.
証明
固有値
の広義固有空間
に対して, 部分空間の列
|
(5.2) |
を考える.ここで
である.
は
の-不変および
-不変な部分空間になる.よって, 定理5.2の議論を行列
と部分空間の列(5.2)に対して適用できる.
の基底
で, それを並べて得られる行列
が
ただし,
の形になるものを選ぶことができる.ここで,
を右辺に移項すると
となる.さらに,
とおくと, は正則行列となり
を満たす.この両辺の左からをかけると, 求めるJordan行列
を得る.
例題 5..3
次の行列のJordan標準形を求めよう.また変換行列も求めよう.
解
(1)
の固有値を求めると
よりの固有値は1だけである.よって, はベキ零行列なるので, 例題5.2より,
とおくと
(2)
の固有値を求めると
よりの固有値は1と2である.固有値1に対して
であるから
となる.そこで
より,
より
と表せる.
次に, 固有値2に対して
を求めると
となる.そこで
をとる.
とおくと
となり, これがのJordan標準形である.
1. 次のベキ零行列の標準形と変換行列を求めよう.
2. 次の行列のJordan標準形と変換行列を求めよう.