面積ベクトル(Area vector)

平面$ \pi$の片側をそのと指定し,表の反対側をとすれば,この平面$ \pi$に表と裏を指定することができる.このように,表裏が指定された平面を有向平面といいます.有向平面の向きを表示するのに,有向平面$ \pi$上に図形を考え,この図形を左肩に見るように図形のふちを回るとき,この平面に垂直であって,右ねじの進む方向が有向平面の裏から表を表します.また,この平面に垂直かつ右ねじの進む方向で大きさ1のベクトルを単位法線ベクトル(normalized normal vector)または,単位法ベクトルといい, $\boldsymbol{n}$で表します.

\includegraphics[width=6cm]{VECANALFIG/areavec.eps}

この有向平面$ \pi$上の図形の面積を$ S$とするとき,ベクトル ${\bf S} = S\boldsymbol{n}$をこの図形の面積ベクトルといいます. $\vert{\bf S}\vert = \vert S\boldsymbol{n}\vert = S\vert\boldsymbol{n}\vert = S$より,面積ベクトルの大きさはこの図形の面積を表し,$ {\bf S}$の向きはこの図形の空間における傾きを表します.

\includegraphics[width=5cm]{VECANALFIG/volvec.eps}
上の図のように,面積ベクトル$ {\bf S}$をもつ平面図形を底面とし,ベクトル $\boldsymbol{A}$に平行な母線をもつ柱体の体積を$ V$とします.このとき, $\boldsymbol{A}$$ {\bf S}$のなす角は鋭角であるとします.すると,この柱体の高さ$ h$

$\displaystyle h = \vert\boldsymbol{A}\vert\cos{\theta}$

で表されるので,

$\displaystyle V = h\vert{\bf S}\vert = \vert{bf A}\vert\vert{\bf S}\vert\cos{\theta} = \boldsymbol{A} \cdot{\bf S}$

となります.このとき, $\boldsymbol{A} \cdot{\bf S}$をこの柱体の有向体積といいます.

\includegraphics[width=6cm]{VECANALFIG/dirarea.eps}
上の図のように,面積ベクトル$ {\bf S}$をもつ長方形ABCDと有向平面$ \pi$を考えます.このとき,長方形ABCDを有向平面$ \pi$上に正射影した像をA'B'C'D'とします.長方形ABCDと有向平面$ \pi$のなす角が$ \theta$のとき,長方形A'B'C'D'の面積を求めてみましょう. まず,面積ベクトル$ {\bf S}$と有向平面$ \pi$の法線ベクトル $\boldsymbol{n}$のなす角は$ \theta$であることに気づいて下さい.すると,長方形A'B'C'D'の面積$ S'$ $ \overline{\rm A'B'} \overline{\rm B'C'}$.また, $ \overline{\rm A'B'} = \overline{\rm AB}\cos{\theta}$, $ \overline{\rm B'C'} = \overline{\rm BC}$.したがって,

$\displaystyle S' = \overline{\rm AB} \overline{\rm BC}\cos{\theta} = \vert{\bf...
...rt{\bf S}\vert\vert\boldsymbol{n}\vert\cos{\theta} = {\bf S}\cdot\boldsymbol{n}$

この議論を一般化して,面積ベクトルが$ {\bf S}$である平面図形と有向平面$ \pi$があるとき,この平面図形を平面$ \pi$上に正射影して得られる図形の面積$ S'$

$\displaystyle S' = {\bf S}\cdot\boldsymbol{n} $

で与えられる.このとき, ${\bf S}\cdot\boldsymbol{n}$をこの平面の有向平面$ \pi$上への正射影の有向面積という.