この節では変数分離形ではないが,積分を2回行なうことによって解が得られる微分方程式について考えます.まず2変数関数の全微分を思い出してもらいます.2変数関数
の全微分は
で与えられます.よってもし2つの偏微分
がわかれば,全微分
が求まります.逆に,関数の全微分がわかると次の例題が示すように,その関数を任意の定数の範囲できめることができます.
例題 1..10
ある関数
の全微分は
で与えられている.このとき,
を求めよ.
解
と
の係数は
と
である.したがって
最初の式を
について積分すると
ここで
は
についての任意関数(なぜ?).この式を
について偏微分すると
となる.この
と最初に与えられた
は等しいはずであるから,
これより
となり,
を得る.ただし
は任意定数.よって
である.
次の定義は全微分と完全微分形微分方程式を結びつけてくれます.
定義 1..1
階の全微分方程式
の左辺がある関数 の全微分 に等しいならば,この方程式の一般解は
で与えられ,このような方程式を完全微分形(exact)という.
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例題 1..11
を解け.
解
例題1.10で上の微分方程式の左辺が
と等しい関数
を求めた.よって一般解は
次の定理は与えられた微分方程式が完全微分形か,でないか簡単にテストする方法を示唆しています.
定理 1..1  と  の  階の偏導関数が,ある領域
 上で連続であるとする.そのとき,次の条件は同値である.
は完全微分形である

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証明
微分方程式が完全微分形ならば,
となる関数
が存在する.よって
を得る.次に
を
で偏微分,
を
で偏微分すると
となる.ここで
は仮定より連続なので
も連続である.よって微積分学で学んだSchwartzの定理(Schwarz lemma)より
となり,
を得る.
を
の定義域に属する点とする.
まず,
より
を得る. これが
を満たすように,つまり
が成り立つように
を定めればよい.
は連続な偏導関数をもつから,微分と積分の順序の交換ができて
が成り立つ.ここで
より
を得る.したがって,
は
を満たさなければならない.そこで
を
と定めると
これより
となり,
は完全微分形である.
この定理の証明の中に完全微分形のときの解
が与えられています.つまり
のとき,一般解は
で与えられます.
例題 1..12
を解け.
解
より方程式は完全微分形である.そこで
として一般解を求めると
となり,一般解は
例題 1..13
初期値問題
を解け.
解
より,方程式は完全微分形である.よって
これより,一般解
を得る.最後に初期条件
より
が定まる.
公式
を用いて,一般解を求める方法の他に,もっとよく用いられている方法にくくり直し法(grouping method)とよばれているものがあります.この方法を次の例題を用いて説明します.
例題 1..14
を解け.
解
より,方程式は完全微分形である.そこで
を
となるようにくくり直す.次に全微分を用いて書き直すと
これより,
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