部分群による類別

定義 1..15   $G$を群,$H$$G$の部分群とする. $a,b \in G$に対して, $ab^{-1} \in H$のとき,$a$$b$$H$を法として右合同であるといい,

$\displaystyle a \equiv_{r} b \ ($mod$\displaystyle \ H)$

と表す.同様に, $a^{-1}b \in H$のとき,$a$$b$$H$を法として左合同であるといい,

$\displaystyle a \equiv_{l} b \ ($mod$\displaystyle \ H)$

と表す.

定理 1..17   $G$を群,$H$$G$の部分群とし,$a,b \in G$とするとき,$H$を法として右合同および左合同という関係は同値関係である.

証明 (1) 反射率,(2) 対称律,(3) 推移律が成り立つことを示す. (1) $a \equiv_{r} a \ $   mod$H$を示す.そのためには, $a a^{-1} \in H$を示せばよい.$H$は群で, $a a^{-1} = e$より, $a a^{-1} \in H$

(2) $a \equiv_{r} b \ $   mod$H$ならば $b \equiv_{r} a \ $   mod$H$を示す. $a \equiv_{r} b \ $   mod$H$とすると, $ab^{-1} \in H$.示したいのは, $b \equiv_{r} a \ $   mod$H$.つまり, $ba^{-1} \in H$$H$は群なので,$ab^{-1}$の逆元 $(ab^{-1})^{-1}$$H$の元である.ところで,例題4.1より $(ab^{-1})^{-1} = (b^{-1})^{-1}a^{-1} = ba^{-1}$.したがって, $ba^{-1} \in H$

(3) $a \equiv_{r} b \ $   mod$\ H, b \equiv_{r} c \ $   mod$H$ならば, $a \equiv_{r} c \ $   mod$H$を示せばよい.各自に任せる.

定義 1..16 (右剰余類)   $G$を群,$H$$G$の部分群,$a$$G$の元とするとき, $Ha = \{ha : h \in H\}$$H$右剰余類という.

定理 1..18   $a$を群$G$の元とするとき,

$\displaystyle Ha = \{x \in G : a \equiv_{r} x \ $   mod$\displaystyle \ H\}$

証明 $[a] = \{x \in G : a \equiv_{r} x \ $   mod$\ H\}$とする.まず, $Ha \subset [a]$を示す.つまり,$x \in Ha$のとき,$x \in [a]$を示せばよい.言い換えると, $a x^{-1} \in H$を示せばよい.

$x \in Ha$とすると, $x = ha, h \in H$$H$は群なので, $h^{-1} \in H$.したがって, $h^{-1} = ax^{-1} \in H$

次に, $[a] \subset Ha$を示す.$x \in [a]$とすると, $a \equiv_{r} x \ $   mod$H$.つまり, $a x^{-1} \in H$$H$は群なので, $(ax^{-1})^{-1} = xa^{-1} = h \in H$.したがって, $x = ha \in Ha$.

定理1.17により,$[a]$は同値類,定理1.18により$Ha$は同値類であることが分かる.したがって,$G$は共通部分を持たない同値類により分割される.よって,すべての$H$を法とする右剰余類は互いに等しいか共通部分を持たない.まとめると,

$\displaystyle G = \bigcup_{a \in G}Ha\ (Ha \neq Hb\ $   ならば$\displaystyle \ Ha \cap Hb = \phi)$

となる.このことを$G$$H$による右類別という.

例題 1..17   加法群 ${\mathcal Z}_{12}$の部分群$<\bar{2}>$による右剰余類の集合を調べてみよう.

$H = <\bar{2}> = \{\bar{0}, \bar{2}, \bar{4}, \bar{6}, \bar{8}, \bar{10}\}$

\begin{displaymath}\begin{array}{ll}
H + \bar{0} = \{\bar{0}, \bar{2}, \bar{4}, ...
...ar{3}, \bar{5}, \bar{7}, \bar{9}\} = H + \bar{1}\\
\end{array}\end{displaymath}

確かに, ${\mathcal Z}_{12} = H \cup (H + \bar{1})$となっている.

ここで,それぞれの剰余類の濃度が同じであることに気づいただろうか.実は,次の定理が成り立つ.

定理 1..19   $G$を群,$H$を部分群とするとき,$H$の右剰余類の集合の濃度はすべて等しい.

証明 $a,b \in G$のとき$Ha$$Hb$の濃度が等しいことを示せばよい.そこで, $\phi : Ha \longrightarrow Hb$を考える.$ha \in Ha$に対して, $\phi(ha) = hb$とおくと,$\phi$は全射である.つぎに,$\phi$が単射であることを示す.各自に任せる.

この定理より,次の定理の証明ができる.

定理 1..20 (Lagrangeの定理)   $G$を有限群,$H$$G$の部分群とすると,$H$の位数は$G$の位数の約数である.

証明 $H$を法とする$G$の右剰余類による$G$の類別を行うと,

$\displaystyle G = \cup_{a \in G}Ha$

よって,

$\displaystyle \vert G\vert = Ha_{1} \cup Ha_{2} \cup \cdots \cup Ha_{n}$

ここで,$i \neq j$ならば $Ha_{i} \cap Ha_{j} = \phi$より, $\vert G\vert = n \vert Ha_{i}\vert = n \vert H\vert$

定義 1..17   $G$を群,$H$$G$の部分群とするとき,$H$の右剰余類の集合の濃度を$G$における$H$指数といい,$\vert G : H\vert$で表す.

Lagrangeの定理より,

$\displaystyle \vert G:H\vert = \vert G\vert/\vert H\vert$

例題 1..18   $H = <\bar{4}>\ \leq {\mathcal Z}_{12}$とするとき,$H$による右剰余類をすべて求めよ.

$H = <\bar{4}> = \{\bar{0}, \bar{4}, \bar{8}\}$より,$\vert H\vert = 3$.次に,$H$による右剰余類を求めると,

$\displaystyle <\bar{4}>, <\bar{4}> + \bar{1}, <\bar{4}> + \bar{2}, <\bar{4}> + \bar{3}$

となり,確かにLagrangeの定理 $4 = \vert G : H\vert = \vert G\vert/\vert H\vert = 12/3$が成り立つことが分かる.

1..41   $H = <\bar{3}>\ \leq {\mathcal Z}_{12}$とするとき,Lagrangeの定理が成り立つことを確かめよ.

1..42   4次の2面体群 $D_{4} = \{r_{0}, r_{1}, r_{2}, r_{3}, s_{1}, s_{2}, t_{1}, t_{2}\}$の部分群 $H = <r_{1}>$について,Lagrangeの定理が成り立つことを確かめよ.