行列式を定義する前に2個の変数に関する連立1次方程式を考えてみましょう.
について解きます.最初の式に
を,後の式に
をかけたものを加えると,
のとき, 解
の 行列式(determinant) といい
または
で表します.この表し方を使うと,
余因子展開
を
次の正方行列とする.
のとき,
のとき,
のとき, 行列
の行
と列
を削除して作った
次の行列の行列式を
で表し
の 小行列式(minor) という.さらに,
の 余因子(cofactor) といわれるものを次のように定義する.
の 行列式(determinant)
を次のように定義する.
この行列式の求め方を第
行についての 余因子展開(cofactor expansion) といいます.同様にして, 次のような行列式の求め方を第
列についての余因子展開といいます.
次の正方行列では行についての余因子展開が
通り可能です.また列についても
通り可能です.驚くことに, どの行または列についての余因子展開も同じ結果を与えます.このことより, 私たちは行列
の行列式を余因子展開で定義することができるのです.
においてすべての行または列についての余因子展開は皆等しい.

解
第
行についての展開を行なう.
行列式の定義としてよく用いられているものには次のようなものもあります.まず
次の正方行列
を考えます.この行列のそれぞれの行と列から成分をひとつずつ取り出しかけ合わせます.すると
の形をした組ができます.このとき, 成分の列の位置
を
で表します.さて
は全部で何個できるでしょうか.
個の数を順に並べるので, 最初の数は
個の中からどれでも使えます.つぎの数は既にひとつ使ってしまったので残りの
個の中のどれでも使えます.こうやって数えていくと全部で
個できることがわかります.次にこの形をした組に次のような規則で符号をつけてゆきます.
が
の順になるように, 隣り合った2数を入れ換えていったとき, 偶数回でできたら
の符号をつけ奇数回でできたら
の符号をつけます.この符号を
で表します.たとえば, 同じ(1432)も
となります.実際,
の符号は一意的に定まります.これより
を求めよう.解
行列式の性質
行列式は次のような性質をもっています.
のとき,

証明
の第
列についての余因子展開は,
の第
行についての余因子展開と同じである.よって
.
この定理によって, 行列式の行について成り立つ性質は列についても成り立ちます.その逆もいえるので, 今後, 行列式に関する定理の証明は, 行または列の一方だけについて行えば良いことになります.
証明
の第
行を
倍したものを
とし, 第
行について展開すると,
.さらに,
は
も
も同じなので,
証明
行列の次数に帰納法を用いる.
を2次の行列とすると,
を得たなら,
となる.
つぎにこの定理が次数
の正方行列で成り立つと仮定し, 次数
の正方行列
でも成り立つことを示す.行列
の第
行と第
行との入れ替えで得たものを行列
とする.このとき
第
行について余因子展開を行なうと,
と
は行列
の小行列式を表しているので
の行列式,
よって帰納法より,
.
証明
行列
の第
行の
倍を第
行に加えたものを行列
とする.つまり
を第
行について展開すると,
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は
の第
行と第
列を削除して得られたものなので,
は行列
の第
行を第
行の
倍して得られたものの行列式なので, 第
行を
倍するとふたつの行の対応する成分がみな等しい行列ができる.この行列の行列式は定理2.18より 0 となる.つまり
.
よって,
.
上の
つの定理より, 行列
に行基本変形を施して作った行列
の行列式は基本行列の行列式と行列
の行列式の積になることがかわります, 言い換えると
証明
つの行基本変形
(
はふたつの行の入れ替え,
はひとつの行にある数をかけて他の行に加える,
はひとつの行に 0 でない数
をかける)に対応する基本行列を
とすると定理 2.14,2.15,2.16 より
は行列
に対応する基本変形
を施したものであるから,
.
が次のいずれかの性質をもつとき,
である.
のふたつの行(または列)の対応する成分が等しい.
のふたつの行(または列)の対応する成分が比例している.証明
(1) 定理2.14で
とおけばよい.
(2) 行列
を行列
の成分の等しい行(または列)の入れ替えで得た行列とすると, 定理2.15より
. しかし行列
と行列
は同じものであるから,
. よって
.
(3) 行列
の第
行が第
行の
倍と等しいとする.
ならば
. よって
とする.行列
の第
行を
倍して得た行列を
とすると, 定理2.14より
.
また定理2.18(2)より
. よって
.

解
ここで
は第1列の2倍を第2列にたすことを意味しています.

解
(a)
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は行列
の第1行と第3行を入れ替えたものなので,
定理2.15より
解
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||
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||
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最後に行列式に関する定理の内もっとも重要と思われる2つの定理を記しておきます.
行列式の積
証明
行列
は適当な基本行列
を用いて
と表せる.よって定理2.17より
なら
.
よって
の, ある行ベクトルは零ベクトル.つまり
の, ある行ベクトルも零ベクトル.これより
.
もし
なら
となるので定理2.11より
となる.よって
が
次の正方行列のとき,次の条件は同値である.
正則行列
が存在し,
で与えられる.ただし
は
の余因子.
はただ
組の解をもち, その解は次の式で与えられる.

証明に入る前にこの定理の中にでてきた転置行列
は
の 余因子行列(ajoint) とよばれ
と表します.また
の
列を
で置き換えたもので,
で表します.
証明
1)
2)
が正則ならば,
なので定理2.19より
. よって
である.
2)
3)
なので
とおくと
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となり
.
4)
を
に左側からかけると,
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右辺の成分
は, 行列
の第
列を
で置き換えた行列
列についての余因子展開である.したがって
4)
5)
がただ
組の解
をもつとする.
このとき
の基本解を
とすると,
定理2.8より
も
の解となり,
より
となる.
よって定理2.9より
となり
を得る.
5)
6), 6)
1) は定理2.11である.
1. 次の行列式の値を求めよ.
2. 次の行列式を因数分解せよ.
3. 次の方程式を解け.
4. 平面上の2点
を通る直線の方程式は
5. 空間上の3点
を通る平面の方程式は
6. 連立1次方程式
が
となる基本解をもてば,
であることを示せ.
7. 次の連立1次方程式をクラメールの公式をもちいて解け.