前節では特性方程式が異なる実数根をもつ場合を考えました.ここでは重根と複素数根をもつ場合を考えます.もし複素数が微分方程式
の特性方程式の根ならば,
は
の形をした解をもっているはずです.ただし,は複素固有ベクトル,は任意の複素定数です.
のが実行列のとき,複素指数や複素ベクトルの存在は扱いにくいものです.とくに初期値
が実数のときはなおさらです.そこで解を実数と実関数だけで表わす必要があります.
を実行列,
が複素固有値で
がに対する固有ベクトルだとすると固有方程式(eigenequation)
よりその共役も
を満たします.よって
も固有値となり,対応する固有ベクトル
をもちます.したがって,
と
はともに
の解になります.もちろん
と
の一次結合も解です.とくにその中でも
と
は一次独立な実数値解です.ここにでてきた
と
のことを,複素数
の実部(real part)と虚部(imaginary part)といいます.
例題 3..3
を解け.
解
より固有値
を得る.
まず,固有値に対応する固有ベクトルを求めると
より固有ベクトルは
である.
次に固有値に対応する固有ベクトルを求める.
より固有ベクトルは
である.これより
の実部と虚部を求めると,
となる.よって一般解は次のように表わすことができる.
さて,行列の特性方程式が重根をもつ場合はどうでしょう.この場合も,が対角化可能(つまり,重複度と同数の一次独立な固有ベクトルをもつ)ならば,単根のときと同じように一般解を求めることができます.ではが対角化不可能の場合はどうでしょう.こんな場合に便利な方法として行列の指数関数を用いる方法があります.
の解として,
が
の解であったように,
を考えます.ただしは次の正方行列,は定数ベクトルです.これが可能なためにはに意味づけを行なう必要があります.そこでのMaclaurin級数
より
で定義します.この展開はすべてので収束することが知られています.これを行列の指数行列(exponential matrix)といいます.また
より,
は
の解といえます.
ここでひとつ問題があります.それは,どうやって
を計算するかということです.定義を使うと無限級数の計算をすることになりますが,じつは無限級数の計算をせずに,解を求める方法があるのです.まず
の展開を考えて下さい.つまり,
ここであるで
が成り立てば,上の展開での後はすべて0になります.よってこのときは,有限級数の計算をすればよいことになります.
例題 3..4
を解け.
解
より,固有値
である.次に固有値に対する固有ベクトルCを求める.
より
となり,ひとつの解
を得る.
は三次の正方行列なので一般解を表わすには,つの一次独立な解が必要である.そこで
を満たすを見つける.
より
は任意の値を取ることができるので,
とおくと,
を満たす.次にもうひとつの条件
を満たすように
を選ぶと,
より.よって
となり,2つめの解
を得る.3つめの解を求めるために,
を満たすを見つける.
は零行列なので
は
を満たす.ここでもうひとつの条件を用い,前に選んだと一次独立になるように,
を選ぶと,
となる.これより3つめの解を計算すると
である.ここで
は一次独立なので,一般解は
で与えられる.
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