今まで扱ってきた微分方程式はすべて未知関数(従属変数)がひとつでした.ここでは個の未知関数をもつ微分方程式の系.つまり連立線形微分方程式(system of linear differential equation)
を考えます.行列を用いるとこの系は
と表わせます.ただし
です.この微分方程式を満たす個の微分可能な関数
をこの方程式の解(solution)といいます.また,
のとき,この微分方程式を同次方程式(homogeneous equation)といいます.
は明らかに,同次方程式
の解です.そこでそれ以外の解を捜すため,1階の線形微分方程式
の解が
で与えられたことを思い出します.このことから多分
は
の解になるのではと見当をつけます.ただしは任意の定数ベクトルとします.これを
に代入すると,
を得ます.ここで指数関数
はどんなに対しても0にならないことに注意すると,
または
となります.ここでは次の単位行列を表わします.
このことから,
の自明でない解を見つけるには
を満たすでないベクトルを見つければよいことがわかります.この連立方程式を満たすを行列の固有値(eigenvalue).そして0でないベクトルをに対する固有ベクトル(eigenvector)といいます.ところで連立方程式
がでない解をもつための必要十分条件は
であることを線形代数学で学びました.また
は次の多項式になり
を行列の特性方程式(characteristic equation)ということも学びました.そこで私たちは,特性方程式を解いて固有値を求め,連立方程式
を解いて,固有ベクトルを求めることができます.つまり非常に難しい微分方程式の問題が簡単な線形代数の問題に還元されました.
例題 3..1
を解け.
解
より固有値は
である.次に固有値
に対する固有ベクトルは
を満たす0でない解よりGaussの消去法(Gaussian elimination)を用いて解く.
よりは任意の定数,,
となる.したがって,固有ベクトルCは
で表わされ,
はこの微分方程式のひとつの解である.
固有値
に対する固有ベクトルは
より
で表わされ,
もこの微分方程式のひとつの解である.同様に固有値
に対する固有ベクトルは
より
で表わされ,
もこの微分方程式のひとつの解である.ここで
は一次独立なので
は一般解になると思われる.次の定理で述べるが,確かにこれは一般解である.よって一般解は
で与えられる.
行列の係数が定数で,個の異なる固有値をもつとき,次の定理が成り立ちます.
定理 3..1 同次連立微分方程式
の が 次の定数行列で 個の異なる固有値
とそれに対する固有ベクトル
をもつならば,この微分方程式の一般解は
で与えられる.ただし,
はそれぞれ
の解であり,また一次独立である.
|
証明
の場合
ここで
は異なる固有値なので
である.
ここにでてきた個の一次独立な解を微分方程式
の基本解(fundamental solution)といいます.
連立同次線形微分方程式はいつも
の形で与えられるわけではありません.こんなときはまず
の形に変換する必要があります.
例題 3..2
次の連立微分方程式を解け.
.
解
と
について解くと,
または
となる.これより固有値と固有ベクトルを求めると,
,
となる.よって定理3.1より一般解は
である.
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